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プロサバンナ・マスタープラン暫定案に関する日本の専門家による分析結果

以下は、10日の外務省・NGOとの意見交換会で発表された、以下の6名のアフリカ、農村・農業開発、食料・土地問題、国際協力の専門家らによる分析です。なお、ここには一覧で載せていませんが、他数名の開発コンサルタントの方々のご協力も得ています。

マスタープラン暫定案がリークされたからできる分析でした。
(*Report 2はGRAINのサイトでダウンロード可能な状態です。)
http://www.grain.org/e/4703
(*共同声明も以上のサイトから)

是非ご一読ください。

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第四回ProSAVANA事業に関するNGO・外務省意見交換会
ProSAVANA マスタープラン暫定案(Report No.2, March 2013)
専門家による分析と問題提起 
      


作成:2013年5月8日

総合的問題  当事者不在で正当性に欠けるマスタープラン
~小農に犠牲を強いる構造とQIP(Quick Impact Project)の問題


マスタープランとは、本来、対象地に住む住民のかかえている課題は何であるのか、住民の大部分を占める小規模農民は何を望んでいるのか、を適確に調査した上で、それを、農業政策全体を包む上位課題の中に位置づけ、問題を解決することを目的とすべきものである。従って小農民がどのような生計の状態におかれ、どのような自然と社会環境のうちにあり、生産、消費、安全保障の活動を行なっているかを調査、分析し、その上に立って解決策を策定すべきものである。

しかし今回示されたProSAVANAの暫定マスタープランは、このような目的意識とあるべき策定の方法をまったく考慮せずに恣意的な目的を設定し、現地状況をかえりみずに書かれたプランであり、正当性に欠けるといわざるを得ない。

これまで、外務省/JICAは、内外にProSAVANAはナカラ回廊の小農支援を中心としたプログラムだと説明してきた(これまでの「ProSAVANA事業に関するNGO・外務省意見交換会」、JICA理事長報告2013年2月22日http://www.jica.go.jp/press/2012/20130222_01.html)。しかしマスタープランの暫定案を見る限り、小農の発展は二の次であり、アグリビジネスの進出を促進することに目的があり、そのために小農に犠牲を強いる構造を構築しようとしていることが明確になった。

この結論は、アフリカ農業・農村開発や援助、土地問題、モザンビークに、専門家として長年にわたり関わってきた日本の我々によるマスタープラン暫定案の分析により導かれたものであるが、結果的にこれは、本年4月29日に発表された現地・国際市民社会組織23団による共同声明”Leaked ProSAVANA Master Plan confirms worst fears: Civil society groups warn secretive plan paves the way for a massive land grab(http://www.grain.org/e/4703)”と類似するものとなった。

マスタープラン暫定案の問題は明らかである。同暫定案で示された数々のプランは、モザンビーク北部地域の住民の暮らしや農業のあり方に大きな影響を及ぼす(特に現地農民の権利を侵害する可能性が高い)ことは明らかであるが、当事者である住民や農民組織、現地の市民社会に開示されず、開示に基づく具体的な中身関する協議はまったくなされてこなかった。これまで3政府が主張してきた「住民・市民社会との協議」(ステークホルダー会合、農村での「正確な情報共有(同上JICA理事長報告)」)は、形ばかりのアリバイ的なものであったといわざるを得ない。

以上の状況にもかかわらず、マスタープラン暫定案の公開とそれに基づく協議や議論を待たずして、融資やQuick Impact Projectが先行することは、現地社会に多大な混乱と紛争を生み出すとともに、問題の多いマスタープランの「免罪符」として活用される可能性があり、大いに問題である。

以上の総合的問題認識に至った、マスタープラン暫定案の問題点を、以下に具体的に列挙する。

なお、『JICA 環境社会配慮ガイドライン』に相当抵触する部分があると考えられるため、今後の議論を深めるための質問を末尾に列挙した。


1.その強力な道具立てになっているのは、ゾーニングという手法を利用して、小農の活動範囲を制限し、アグリビジネスと企業的農業の利益を優先させて、小農をこれに従属させるという計画手法で、通常の農業開発計画の作成において通念となっているゾーニングの考えを逸脱した、細部にわたるまでの強制を伴う計画執行を予定している。

2.ゾーニングは、気候、土壌性質、地形、住民の社会的特徴、地理的分布など、既存の状態を詳しく調べ、そのデータに基づいて、これを改良、発展させているための手法である。しかしProSAVANAで執行しようとしているゾーニングは、これらの既存の状態、特にそこに住む農民の大多数を占める小規模農民の状態を詳しく調べることなく、特に小農にとって必要な休閑地、薪炭採取地、牧草地など、Report 1で農用地の範囲について疑問を呈しているにもかかわらず、(例、Report 1, 2-14)むしろこれを無視して、まったく異なる考えに基づき、単純な点数配分などを使い、独断的(arbitrary)なゾーニングの特徴づけと発展方式の指定を行っている。

3.開発主体を個人農業(主に小農)、農民組織(未成立の共同組合かAssociation)およびアグリビジネスの3種類に限り、ゾーンごとにどの主体に開発を任せるとの指定をしている。全study area を6種類のゾーンに分け、そこで栽培されるべき作物と指定(目標として決定)し、どの主体がその推進の役目を担うのかを、事細かに説明している。 ゾーニングはクラスター化(同種の集合)とセットで考えられており、小農の作物選択の意志は完全に無視され、食料主権と食料安全保障の意欲に悪影響を与える構図になっている。
 ゾーンによっては、アグロインダストリーの1社のみ(Majune District, 2-17)が指定されている。
 フードシステム論で言うクラスターとは、異なった業種の集積によって単なるスケールメリットを超えた複合の利益を得ることを目的としている。ところがマスタープラン暫定案のクラスターはこうした理解とは異なり、モノカルチャー型の集積を意図している。モノカルチャー型の農業、経済はとりわけ熱帯アフリカにおいて脆弱性を増大させるという大きな問題を持っている。

4.またゾーンの中に、Special Economic Zoneを設定して、Incentiveや租税優遇措置など、アグリビジネスの進出を促す計画があり、アグリビジネス中心のゾーニングであることを明白に示している(2-23)。またゾーン計画を固定化させる作用を持つQuick Impact Projectを先行させ、実施に入っているが、それは細部が決定され、実施団体、場所、コスト計算などが明記されている(4-6~11)。

5.過去の数々の事業の失敗により広く認識されている通り、農業・農村開発において、Quick Impactは利益よりも悪影響をもたらすことが多い。短期的な効果として労働生産性の向上や生産量の増加が想定されているが、熱帯アフリカの生態系や土壌条件に照らすと、そのことはかえって中長期的な持続性を損なう、略奪的な結果をもたらす恐れが大きい。その点に関する検討はまったく見当たらない。

6.マスタープランの内容として、32のプロジェクトが明記されているが、その中には住民との紛争  が予想されるものが多く入っている上(例:土地登記DUAT事業)、他に先行させるものとしてパイオニアプロジェクトという位置づけがなされているが、最も重要な住民との話し合いの必要が明記されておらず、実行には長期間を必要とするものが多い。莫大な費用がかかるものも含まれている(3-4)。

7.Pilot Project Under ProSAVANA Development Initiative Fund (PDIF)について。すでに始まっているこのパイロットプロジェクトの現状がいくつか説明されているが、問題に直面しているところが多い。(3-13) とくにDUAT(土地占有権)の登記に関するものが多い。しかしこの土地登記を何よりも先行させるべき項目としている(3-15)。モザンビークの農民は現行の1997年土地法で慣習法上の土地アクセス権を保証されているので、登記を急ぐことはその土地アクセス権を狭めることになる。アフリカの他の国の事例に照らしてみても(タンザニアの例)、農民は土地登記にインセンティブを持っておらず(土地登記コストの生活水準から見ての高さ等)紛争を軽減させるどころか、紛争を激化させる原因となることが多い(タンザニアのモロゴロ州の例:Izumi,Ph.D.論文、Roskilde University,1998)。この点についての検討も、まったく見当たらない。

8.このプロジェクトが実行されると、必ず農民の土地収用が起ってくるが、その弊害を回避させる仕  組みはきわめて弱く、回避に役立たない可能性が高い。QIPのうち6つは最初から強制的住居移転が想定されている(4-60)。このためProSAVANA Guideline on RAIなるものの策定を始めているが、その中の1つにSupport Organization for the Investment and Value Chain Development がある。しかしこの項にもこれを守らせる強制力を与えていない。他にProSAVANA Implementing Body の設置が勧告されているが、これについても違反者への処罰の権限はあたえられず、可能な方法として、独自のモニターを行なえるとし、その場合も資料を提出させることができるとしか規定しない方針であるというアリバイ的な提案にとどまっている。従って投資主体の活動をモニタリングする仕組みが全く組み込まれていない。

9.同マスタープラン暫定案(2-28)では、「地元農民と企業の間で深刻な土地紛争が起きている」と書かれ、大規模植林や鉱山開発の問題が指摘されている(2-28)。つまり、すでに土地争奪が生じている現実であることが認められている。

10.PRAI(責任ある農業投資原則)とFAOのボランタリー・ガイドラインについての記述がおざなりである。特に、FAOボランタリー・ガイドラインは、説明されないまま、「これを参考にすれば」良いと言う程度の扱いになっており、なぜガイドラインではなく、PRAIのみをベースとした「ProSAVANA Guideline on RAI」とするのか疑問である。PRAIは専門家 や世界の農民組織、市民社会から多くの批判がある 。またPRAIは、国際農業投資で最も影響を受ける途上国各国の農民組織や食料・土地問題に詳しい専門家や国際NGOなどの参加がないまま策定され、人権法への言及がない上、投資活動の妥当性を判断する責任主体が明確でない。そもそも「投資受け入れ国政府、投資家」と「現地の人々」を並列しており、「現地の人々」の権利を優先した原則ではない。

このPRAIの問題性を踏まえて、世界のマルチステークホルダーが集まって策定したFAO ボランタリー・ガイドラインではなく、ProSAVANAのガイドラインを「on RAI」とすることは、ProSAVANAの目的がアグリビジネス本位のものと受け止められる。なお、いずれも「自主原則」となっており、現地農民や環境を守るための規制を排除しており、権利を守るためには不十分である。

11.同様に、(5-1)Existing rights to land: Independent avenues for resolving disputes and grievancesがあるが、どのような独立した苦情メカニズムが処理される予定なのか明らかでない。カンボジアでの調査の結果、地域によって苦情メカニズムが設立されず、また同国の政治状況により現地住民は苦情を申し立てることを恐れているため申し立てができないという現実があった。このような教訓を、どのようにモザンビークで踏まえるべきか明らかでない。なお、PRAI策定プロセスで外務省がまとめた資料 では、「積極的な農業投資受け入れ国」として、「モザンビーク、 スーダン、ラオス、ミャンマー、キューバ―、ウクライナ」が挙げられている。いずれの国も民主化が停滞し問題を抱えており、本意見交換会質問状へのJICA回答でも「ランドグラビングはガバナンスに問題がある国で起きている」との指摘がなされている。つまり、「積極的に農業投資を受け入れようとする国ほどガバナンスや民主化において問題があり、現地住民や農民の権利を侵害するランドグラビングが起きやすい」ことを踏まえ、本来マスタープラン暫定案は、「現地小農の権利擁護」を目的の第一に置くべきであるが、それが見当たらない。

12.モザンビーク北部地域の歴史や紛争後の政情分析がマスタープランに一切記載されていない。そもそも、ザンベジア州、ナンプーラ州、ニアサ州の対象地域は、ニアサ州の北方を除き、1977年~92年の戦争で反政府勢力(現在の最大野党RENAMO)が支配地を点在させ、最も被害を受けた地域である。戦争に加わった者も被害を受けた者も農民である。このような地域で、政権与党と組んだ農業投資を奨励するリスクや問題についての検討がなされていない。

13.小農による土地利用の現状が適切に評価されていない。外から見ると、「低利用」にみえる共同草地や放牧地、休閑地はそれがないと生存が成り立たないという意味で小農たちにとってきわめて重要である。基本的に低利用・未利用の土地はないという認識を前提にすべきである。国民の多数を占める小農を農業発展の担い手として認識していないことが最大の問題である。

14.契約農業が途上国でうまくいっている例はあまり多くない。契約農業が小農民の発展に結びつくためには、一般的に言って弱い立場に置かれる販売者側の組織化(たとえば組合に対する強い権限の付与と政府による交渉のサポート)と販売ルートの複線化が必要であるにもかかわらず、とにかく、加工業者やアグリビジネスと契約させれば小農部門が発展するというロジックになっている。

15.結局のところ、この計画は農民の食料主権・食料への権利を無視しており、彼らの望む発展の形(栽培作物の多様性の維持、食料自給とその上での現金取得の可能性の増大)とはまったく異なる発展を、強制的に押し付けるものである。逆に企業による投資には多くのインセンティブを与え、土地取得を容易にし、農民にクラスター化やバリューチェーンの特定企業導入などの恣意的な押し付けをもたらし、農民主権を剥奪するものであるといわざるを得ない。

16.環境については、Report1(3-1-7)にある通り、ProSAVANA対象地の多くが森林で覆われている。特に、新たに追加されたMajune郡は明らかに森林地帯となっている。Report2では、まさに同郡の特徴(VIゾーン農耕地13%、森林77%に分類)として「広大な森林large forest areaがあることが利点helpful(森林への配慮が必要だが土地へのアクセスは良好)(2-9)」となっており、明確に森林伐採をしたうえでの農地転地が予定されている(2-28) 。

17.Environmental Zoningが取り入れられ、「環境の脆弱性」の指標として薪の需給バランスが示されている(2-2)。薪は、人間により木が伐られ加工され運ばれ使われて初めて「薪」となる点について、つまり人為的なものであり環境指標と呼ぶべきものではないことが考慮に入れられていない。「需給バランスが適切だから環境が豊か」、「需給バランスが崩れているから環境が脆弱」のいずれの前提も、適切ではない。そもそも、自家採取されることが多い薪の需給を正確に測ることも不可能である。何より、森林や生物多様性の保護という国際潮流に反した「環境ゾーニング」である。

『JICA環境社会配慮ガイドライン』に関わる質問一覧
については、Moreをクリック下さい。

以上

分析者一覧
・吉田昌夫(AJF食料安全保障研究会、元AJF代表、元中部大学教授)
・舩田クラーセンさやか(東京外国語大学准教授、AJF会員、元TICAD市民社会フォーラム副代表)
・西川芳昭(コミュニティ・コミュニケーションサポートセンター テクニカルアドバイザー/龍谷大学経済学部教授、元TICAD 市民社会フォーラム会員)
・池上甲一(近畿大学農学部教授)
・米川正子(立教大学特任准教授、評価士)
・近藤康男(No! to Land Grab, Japan)





(1)住民移転を含む環境予備調査結果 (環境配慮実施の背景)の章 がマスタープランに掲載されていないが、調査は実施され、これはいつどのように反映されるのか。

(2) (3-44, 3-47, 3-48, 3-50 etc) “The implementation of the cluster will bring development to the region and will improve the living conditions of the local population.” 本クラスターがどのように生活環境を改善するか不明である。

(3)(3-17) Improvement of information disclosure system “Creation of websites or public access points for PDUTs, investment project documents, EIA reports, consultation records and supervision reports;- Distribution of printed PDUTs together with explanation for relevant actors.”とあるが、これらの書類は現地の言語に訳され、現地住民が専門用語を理解できるように、どのような工夫が行われるのか。

(4)(3-15) Project Goal: “Mitigate the insecurity and fragility of small farm (small scale farmer) and ensure the right related to the use of the land and possession of the properties on the land”→既存の小農組織は連携がとれていると聞いているが、具体的にどのように”insecurity and fragility”なのか。

(5)(4-57)Vulnerable group→ なぜ弱者の孤立化の理由が明らかになっていないのか、説明をお願いしたい。『JICA 環境社会配慮ガイドライン』(8ページ)によると、「JICAは、協力事業の実施に当たり、国際人権規約をはじめとする国際的に確立した人権基準を尊重する。この際、女性、先住民族、障害者、マイノリティなど社会的に弱い立場にあるものの人権については、特に配慮する。人権に関する国別報告書や関連機関の情報を幅広く入手するとともに協力事業の情報公開を行い人権の状況を把握し、意思決定に反映する。」 →本事業において、誰が弱者としてみなされているのか、不明である。そして弱者が意思決定プロセスにどれだけ参加しているのか。(なお、Report 2では、Socioeconomicゾーニングとして、いくつかの指標(人口、道路密度、鉄道密度、耕作面積、識字率)が取り上げられているが、その妥当性もさることながら、ウェイトの置き方が示されず、どのように把握が可能か明らかではない。

(6)(3-58)Environmental and Social Considerations (Summary of pre-screening EIA)“Encourage community participation through public consultations” 『JICA 環境社会配慮ガイドライン』(20ページ)によると、「非自発的住民移転及び生計手段の喪失に係る対策の立案、実施、モニタリングには、影響を受ける人々やコミュニティーの適切な参加が促進されていなければならない。また、影響を受ける人々やコミュニティーからの苦情に対する処理メカニズムが整備されていなければならない。」 →影響を受ける人々を含むコミュニテイーは、立案プロセスから意味のある適切な参加というより、参加が妨げられていると農民組織から聞いている。それに関する説明をお願いしたい。

(7)『JICA 環境社会配慮ガイドライン』(1ページ) によると、「環境社会配慮」は基本的人権の尊重と民主的統治システムの原理に基づき、幅広いステークホルダーの意味ある参加と意思決定プロセスの透明性を確保し、このための情報公開に努め、効率性を十分確保しつつ行わなければならない。関係政府機関は説明責任が強く求められる。あわせてその他のステークホルダーも真摯な発言を行う責任が求められる。」→モザンビーク政府以外に、誰が「ステークホルダー」としてみなされているのか。  
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by africa_class | 2013-05-12 18:49 | 【考】土地争奪・プロサバンナ/マトピバ
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