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『アフリカ学入門』の書評(AJF斉藤龍一郎さん)

日本アフリカ学会の学会誌が送られてきました。何気に開いたら、
『アフリカ学入門』の書評がありました。せっかくたくさん書いてくださ
ったのですが、学会員の眼にしか触れないので、執筆者の斉藤さん
にお願いしてファイルを送ってもらいました。是非ご一読を!
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舩田クラーセンさやか編
『アフリカ学入門─ポップカルチャーから政治経済まで─』
明石書店、2010年、364頁、¥2,500
斉藤龍一郎(アフリカ日本協議会)
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 サブ・タイトルの通り、アフリカの政治経済を考えるための視点を提示する論考やアフリカでの国際機関の活動紹介から始まり、アフリカのポップ音楽の解説、伝統と現代的感覚を活かしたティンガティンガの紹介、さらにはアフリカ諸国の大学や専門学校への留学の手引きまでと、実に幅広い内容が盛り込まれている本である。執筆者も、アフリカ研究者だけでなく、アフリカでの起業経験をもつ者、日系企業の社員として活躍し、その後ターボ・ムベキ前南ア大統領の顧問を務めた者、マサイと結婚しアフリカへの草の根スタディツアーを主催している者といった広がりがみられる。南アフリカ共和国でサッカー・ワールドカップが開催され、「アフリカの年」から50年にあたるという、アフリカがさまざまな形で話題に上った2010年という時期にタイミング良く出版されたこともあって、本書は、アフリカに関するまとまった本を読むのは初めてという層にも広く読まれたのだろう、出版からまだ日が浅いのにすでに重刷されている。
 評者は、20数年前、ケニアの小説家グギ・ワ・ジオンゴの作品、そして反アパルトヘイト運動と出会ったことをきっかけにアフリカに関心を持つようになった。その後、1993年の東京アフリカ開発会議(TICAD:現在は「アフリカ開発会議」と呼ばれる)に向け、NGOや研究者などの呼びかけで開かれたアフリカ・シンポジウムに触れて、1994年にアフリカ日本協議会(AJF)の会員となり、2000年からは事務局長として会の運営にも関わるようになった。その間、アフリカに関心を持ち続けてきたが、アフリカの歴史・地理・社会、アフリカに関わる人々の姿、日本との関わりなどに関する系統的な知識や情報がなかなか得られなくてもどかしい思いを持ってきた。本書は、評者のような、アフリカに関心を持ちつつもどこからどのようにして情報を得たらよいのかがわからないと感じている人たちにとって、非常に参考になる本である。
 編者の舩田さんは、日本とアフリカの市民社会の協力関係の構築・強化を求める立場から2003年の第3回TICADに関わり、同じ問題意識を持つ大林稔さんを代表とするTICAD市民社会フォーラム(TCSF)を立ち上げ、副代表として、NGOのみならず国連機関、アフリカ外交団、外務省、JICA、研究機関など、アフリカに関わる活動・事業を行うさまざまな団体や機関、そして個人への働きかけを行ってきた。そうした取り組みの一つとして、TCSFが2005年から2007年にかけて東京と神戸で開催した「アフリカ学講座」の講義録が、本書のベースとなっている。
 まず、そうしたTCSFの活動を通して、その単なる活動紹介ではなく、むしろアフリカの直面する「問題群」を歴史的、社会的かつ系統的に理解するための手がかりを提示する本書のような優れた著作が生み出されたことに注目したい。
前置きがやや長くなったが、本書の概略を紹介する。
冒頭の「アフリカ学への誘い」で、編者の舩田さんは、TICADに関するメディア報道、日本のアフリカ政策の動きを紹介しつつ、大学でアフリカについて教えた際の学生たちの反応等から、アフリカに関する系統的・継続的な情報提供が不充分であることを指摘している。
「第Ⅰ部 アフリカを学ぶ」では、大林稔さんが入門概論Ⅰ・Ⅱ(歴史と現在)、高橋基樹さんが貧困・開発論、武内進一さんが紛争論、吉田昌夫さんが食料安全保障論、山田肖子さんが教育論、勝間靖さんが保健・環境衛生論、富永智津子さんがジェンダー論、そして鈴木裕之さんが文化論をそれぞれ分担執筆している。
「第Ⅱ部 アフリカに接近する」は、青木澄夫さんの日本-アフリカ交流史を冒頭に置き、JICA・NGO・国連機関によるアフリカ協力の紹介、「あなたの周りの「アフリカ」探し」と題された日本のなかのアフリカ紹介、そして日本でアフリカについて学ぶことのできる大学や機関の紹介を収録している。
最後の「第Ⅲ部 アフリカで学ぶ、働く、根を下ろす」では、アフリカ留学の勧め、アフリカで働くさまざまな人々の経歴・経験の紹介、そしてアフリカで結婚して暮らすことを選んだ人の体験記等、アフリカへのさまざまな関わり方が紹介されている。
第Ⅰ部の執筆者たちは、TCSF「アフリカ学講座」をはじめとするさまざまな場面での質疑を踏まえて、整理された基本的な考え方を簡明に記述している。アフリカに関する質問を受けることの多い評者にとっては、まずこれを読んで下さい、と言える手堅い内容となっている。
第Ⅱ部第4章「あなたの周りの「アフリカ」探し」では、これまであまり注目されてこなかった在日アフリカ人コミュニティの直面する課題が紹介されており、実に興味深い。
また、評者の近辺にもアフリカに関わるビジネスへの関心を持っている人が増えており、第Ⅲ部に収録された南アフリカ共和国在北海道名誉領事の宮司さん、元ケニアナッツ社社長の佐藤さんの経験はたいへん参考になった。これらの人々の記述をきっかけに、ビジネスを通してアフリカに関わった人々の経験や知見を共有し、さらには検討の対象としていくこともアフリカ研究のテーマのひとつとして重要だろう。
ところで、本書は、単にNGO活動を一つの基盤として編み出されたというだけでなく、アフリカに関心を抱く者、特に評者のようなNGO関係者やその活動に興味を持つ者にとって重要な意味合いをもつ。
第一に、本書はアフリカを捉える視点の地平を広げる可能性を秘めている。特定の「問題」に触れてアフリカに関わろうとするNGO関係者は、その「問題」のみを通してアフリカを見てしまいがちである。違った視点から「問題」を見ることが必要と思っても、具体的な材料がないと、なかなかそれができない。本書の各章ごとの著者紹介、アフリカ出身者によるコラム、そしてさまざまな形でアフリカに関わっている人々の取り組みの紹介によって、それまで考えたこともなかったアフリカとの関わり方や見方を知るNGO活動家はけっして少なくないだろう。評者は、ともすれば「私ががんばってアフリカの人びとを救うんだ」と考えがちなNGO活動家には、第Ⅰ部第3章の著者紹介にある「アフリカを救うのではなく、その苦悩を理解しつつ、アフリカの人びとが自らの道を選び取り、歩んでいくことを支えたい」という表明に注目してもらいたいし、そのために同章だけでなく高橋さんの著書『開発と国家─アフリカ政治経済学序論─』もぜひ読んで欲しいと思っている。
 また、章末の参考文献・ウェブサイト案内ではDVDやビデオなども豊富に紹介されており、NGOがアフリカに関わるさまざまなテーマで学習会や講演会等を開催する際にたいへん役立つものと思われる。さらに、第3部で紹介されているアフリカの大学等への留学に関する情報も、アフリカに関心をもつ学生や若者たちの相談に日々向かい合っているNGOの運営者にとって非常に参考になろう。
 NGOの活動はどうしても点の活動になる。アフリカは、緯度で言えば北は日本の本州から、南はオーストラリア大陸よりもさらに南のタスマニア島にまでいたる、実に広大な大陸とその周辺の島嶼から構成されている。しかし、NGO活動家は、その広大なアフリカのごく限られた、まさに点的な地域でしか活動していない。そうしたNGO活動家にとって、本書第Ⅰ部最初の2章で提示されている「アフリカ」概念に触れることは、大きな意義がある。残念ながら、現在の日本の学校教育では、アフリカには54を数える国家があること、そして国ごとに、また地域ごとに固有の歴史があり、独自の社会制度・慣習を育んできたこと、にもかかわらず「一つのアフリカ」が語られる歴史的背景はたしかに存在し、そのことがアフリカ各国の社会や歴史に大きな影響を及ぼしてきたこと等を学ぶ機会はごく限られている。アフリカが直面する「問題」をよりよく理解するためには、まず歴史について考える必要があり、そのことを意識づける上で、大林さんの2つの章は、本書のなかで特に重要な意味合いをもつようにみえる。
 これからアフリカについて学ぼうとしている人々、NGOの活動を通してアフリカに関わっている人々は、アフリカが直面する「問題群」を個々バラバラの「問題」ではなく「問題群」として総合的に扱おうとしている本書を通読し、「問題群」を総合的にとらえる視点に馴染んでほしい。インターネットの普及もあって、事項事典的な「問題」解説に触れる機会はたしかに増えた。そうした「問題」解説では、ともすれば「問題」は他の「問題」と短絡的に並置・比較され、そのうちのいずれの「問題」に対して優先的に取り組むべきかといった相反的・競合的なテーマとして扱われやすい。総合的に扱うためには、それだけの準備が必要であり、またそれに見合う方法も必要であって、本書は、そうしたアフリカに関わる「問題群」を総合的に捉えるための準備に資する絶好の入門書となっている。
by africa_class | 2011-05-29 08:43 | 【記録】原稿・論文
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