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「領土問題」にみる本質的問題-騙されず、「誰の得か」を分析し、精神的動員に抵抗を

限りなく時間がないのですが、緊急事態なのでツイットしたこととその背景を簡単に掲載しておきます。(なお、私の本当の専門を知らない人が多いのですが<自分でも時々迷子>、私の専門は平和のための戦争研究で、古今東西世界中の戦争を嫌になるほど研究してきました。その成果はThe Origins of War in Mozambiqueに→http://theoriginsofwarinmozambique.blogspot.jp/2012/09/front-cover-of-book.html
 なので、きれいごとで書いているのではなく、何百万人殺される現代の戦争を根源まで問い続けて得た理解です。間違っているかもしれませんが、それを踏まえた今の私の考えです。日本について、この研究蓄積を使う日が来なければいいと願っていましたが、そうもいっていられない事態が生じてしまっています。

この領土騒ぎ。
『現代アフリカ平和・紛争論」の受講生なら、この問題をどう扱うべきか分かるでしょう。この事態を想定して、外大に着任してから毎年この授業をしてきました。アフリカの戦争について学ぶはずの受講生が、「日中戦争における民衆動員」についてレポートを書いているのは、「遠い戦争を身近に」ということと、「いつか」に備えてのことでした。(なお、理論的に言うと「領土争い」は「旧い戦争」の最重要形態ですが、「新しい戦争」と結びついて厄介なものになっていくでしょう)

 今、日本はあらゆる面で、戦争突入直前期(30年代、40年代)の雰囲気が漂っています。そのことに、本来一番抵抗すべきメディアがまったく頼りにならないばかりか、事態を追認させ、悪化させる状況が生まれています。言論の自由が保証されているはずの、大学もまたそうです。植民地支配に加担した御用学者は、戦後反省する、周辺化され、権力と闘うことの意味を追求してきた新しい世代の学者を生み出してきたはずでした。しかし、急速な経済成長にともなって、利権・政治に取り込まれる御用学者が信じられないほどに増えていたことに、311後の日本で気づかされたのでした。

 今、世界経済は19世紀末からの帝国主義時代に限りなく近い様相を示しています。世界に充満する価値観(弱肉強食)、経済至上主義、資源・領土争いもまた、あの時と類似しています。その結果が二度の世界大戦であったにもかかわらず、それぞれの国の権力者も本来批判すべきメディアや市民社会も、民衆も、気付いてか気づかなくてか、時代の空気に呑み込まれています。これは、非常に危ないです。
 
 この空気の中で、今一番動員の危険にさらされている民衆は、間違いなく「日本」の人びとです。一見、政府に動員されているようにみえる中国民衆ではありません。
 世界経済で負け続けている日本、国内的な課題が山積で不満が充満にしているのに、それに応えようとするどころか利用して権力の座を守りつづける(あるいは拡大しようとする)為政者とそれを支える利権構造が、民衆を精神的に動員し、エモーションを刺激して、物理的な動員に向かっていくでしょう。今、そのエモーション刺激の段階に入っています。

●これによって得をするのは誰でしょうか?
●本当に、民衆でしょうか?
●単に現政権だけではありません。
●今、民衆のエモーションを刺激して動員したいのは誰でしょうか?
●陰にいるのは誰でしょうか?
●彼らは、何から民衆の目を逸らさせたいのでしょうか?
●そのことによって、何を実現したいのでしょうか?

 長年平和のために戦争研究をしてきた私の結論は以下です。
 「紛争の種」とは、実は「誰かに何かの目的で創り出される」もの。

 「これは前からあった問題で、起こるべくして起こった」と信じる人達に問いたいのは、「では何故今なのか?」です。 どの社会にも、どの関係にも、問題はあります。しかし、その問題が真に問題化するタイミングは自然の成り行きでは決してありません。「今この瞬間」を創り出している勢力があります。時に、無自覚にやっている場合もありますが、大抵の場合核にいる人達は自覚的で、その追従者は無自覚な場合が多いです。
 そのことを意識せず、誰か(為政者)が創り出している動きに無邪気に乗っかかるのは、問題が乗り越えられないだけでなく、動員へ一直線となり、何かもっと重要なことを踏みにじる契機となるでしょう。

 そして、「領土」だけ見るのであれば、勿論衝突しかない。人間、国同士の関係において、一つしかないものを奪い合った結果は、そのどちらかが正当性を有していたとしても、歴史が証明しているところです。勿論、この場合、一方(日本サイド)だけの話をしているわけではありません。以上のいずれの問いももう一方(今回は中国サイド)にもい当てはまります。「関係」とは、相互に展開していきます。どっちが悪いかでみると、必ず視野が狭まります。両方でみるのがベストですが、まずは日本で、日本関係者にこそ動員される側におり、過去の歴史において精神的動員が容易であることが証明された私たちは、日本サイドを分析してみましょう。

 つまり、勇ましいことを言って片棒を担ぐ前に「誰が何のために領土問題を創り出してるか」を分析しなければなりあません。もっと根深い、大きい、利権が見えてくるはずです。目の前で生じている現象(地図、島周辺、デモ)や「対立者の動き」だけで判断しては危険なのです。それは、この問題を創り出して利を得ようとしている勢力を利するだけでなく、本来したかった「問題解決」には向かわず、よりもっと酷い結果(引き返せない対立構造)を生み出していくでしょう。
 意図的に一問題に視点が集中させられている現状から、一歩引き、争点をズラし、全体像をみようとすべき時はまさに今です。
 懸命な皆さんになら見えるはず。そして、そもそも私たちが北東アジアという引越し不可能なこの地域で、どのような関係を築いて生きていくべきなのかとのビジョンを、あれやこれやの不満や言い訳や諦めを語る前に、考えてみましょう。島や領土が真の問題じゃないことが見えてくるはず。なのに、「領土」という一点で、問題化した人達がいる。その人達は、真の問題解決(超越)も、より発展した関係も、そもそも求めていないのです。求めていたら、こんなにズサンで結果が明らかなやり方を取らなかったでしょう。
 これは戦前、戦争に突入していった際と同様で、かつ当時の構造と同じく、今日本で注目・注意したいのは以下の人達です。

①一番勇ましい事を言っている人たち(特に、政治家や政治政党、業界団体)
②それを報道し、煽るメディアや教育者
③それを背後で操る官僚たち

①誰が、この問題の引き金を引いたのか?なぜそのタイミングでしたのか?②誰が、その行動を支えたのか?なぜ?③誰が、この問題を下手に扱ったのか?鳩山政権が倒れるきっかけとなった「日米関係悪化」を演出したのと同じプレーヤー・構造が、①~③にみられるという点です。その後起こったことは、民主党政権の③官僚主導であり、①民主党内タカ派の主流化と三党合意です。

*なお、鳩山政権と日米関係悪化については、ウィキリークスが流した米国外交文書を精査した朝日新聞が、興味深い記事を書いています。そこには、外務省高官と自民党議員とが、米国政府と打ち合わせながらこの動きを作り出したことが書かれていました。記事は今すぐは探せないので、皆さんで探してみてください。ウイキリークスx朝日新聞は→http://webronza.asahi.com/politics/2011051800001.html

 本来、この続きに「じゃあどうするか?」=トランセンド(紛争超越)について書くべきなのですが、時間がないで、まずはそれぞれが以上の分析をしてみてください。受講生は、「一つのリンゴを二人の飢えてる少年が分ける」グループワーク・・・を想い出してください。一つしかないリンゴを凝視している限り、二人の少年の関係も、「飢えている」という真の問題も解消しないことは、おそらく書くまでもないでしょうが。

●原発事故後にすでに起こっていた現象についての分析
→http://afriqclass.exblog.jp/i26/
●授業での取り組み
→http://afriqclass.exblog.jp/i23/
by africa_class | 2012-09-16 18:01 | 【大学】アフリカ平和紛争論
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