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中山智香子『経済ジェノサイド:フリードマンと世界経済の半世紀』(平凡社新書)を読みながら

太陽が陰ると屋根上のOMソーラーパネルが作動せず寒くなる我が家。
間伐材から出来た木質ペレットを燃料とする我が家のストーブはあくまでも補助で、主体は太陽の力で温められた空気・・・のはずが、昨日曇ったお蔭で室温10度。しかもドイツに行っていたのでペレットを注文し忘れ、ストーブはつけられない。太陽にすがるのみの生活も、やっと13度まで来たところで、陰ってきた。天気に一喜一憂しながらの暮らしも、なんだか、しかし、楽しい。(書いているうちに14度になった)

本題。

 同僚の中山智香子先生と出会えたことは、学生の皆さんに出会えたことと同じぐらい、外大に着任して10年近くなる今ふり返っても一番の財産。チャーミングで超有能、経済理論…などという聞くからに難しそうなものを、生活に根差した言葉で語れ、政治社会の問題にアクティブに思考を巡らせ、知的世界の中で次から次へと面白いイベントを仕掛けてきた方。あんなに語るべきことを沢山もっているのに、イベントではいつも「縁の下の力持ち」に徹する献身。学問において超厳しい方であるものの(きっと外大一)、実は学生想いのアツい本当に心の温かい先生。学術界でも手堅い仕事をする研究者として重宝され、いつも原稿を抱えてぐったりしているのに、個として、一人の人間としての感性を磨くことを忘れず多芸な智香子先生。常にクリティカルで、そのことを会議で語る勇気を持ち、毅然としたその姿は時にまばゆいばかり。大学で起きる様々な驚きの数々の問題をなんとかやり過ごすことが出来たのは、智香子先生の姿をみてのこと。
 研究・教育・社会発信・芸術・事務・・・そのすべてに秀でた智香子先生に学ぶところ多し。(なんだかラブレターのようになってしまったけれど、まあいっか。本当のことだから。)
 そんな智香子先生の凄さを私が改めて知ったのは、2011年3月11日以降のことだった。私は例のごとく、またNGOを立ち上げて(福島乳幼児妊産婦ニーズ対応プロジェクトhttp://fukushimaneeds.blog50.fc2.com/)、立ち上がった福島の女性たちの後に続けという女性たちの運動のお手伝いを開始して、わけもわからず忙しい日々を送っていた。そんなある日、経産省前での女たちの抗議座り込みに現れてくれたのであった。しかも、デモグッズ持参で!失礼ながら、その時まで彼女がデモに参加していたとは知らなかった。しかも常連さんであったことも!そして、デモ友の女性やO先生も連れてきてくれていた。その時まで、私は本当の意味で智香子先生のことを理解していなかったのだ・・・と気づいた。経済理論という「ムツカシイ」ことをする研究者であるから・・・とこの私ですら勝手な思い込みを持っていたようだった。智香子先生ごめん!彼女が一市民として、徹底して抗う側の一人として立ち振る舞ってきたことを思えば、当たり前中の当たり前だった。不覚にも・・・。
 その後も、色々な機会に私たちの抗議活動に参加してくれ、互いに励まし合ってきた。どんなに疲れても、金曜日夜、互いに名前を知らない人たちと一緒にあの場に立つことが、いかに今の私たちに必要なことなのか・・・そんな話をしてきた。

 私たちの市民性が試されている今。と同時に、私たちは研究者である。専門性において、今何かしないのであれば何の意味があるんだろう…。焦りとともにつらつら考えてはいるものの、そして色々なことをこのブログでも書き散らしているものの、ちゃんとしたまとまりをもった形で社会に提示することができないもどかしさを感じていたところに、智香子先生から昨日本を頂いた。彼女が、ちゃんと宿題をこんな形で貫徹したことに、心からの称賛を送りたいと思う。智香子先生だから書けた本。智香子先生だから書かなければならなかった本。そのためにギリギリのところで生活していたことを、「あとがき」で知った。私も頑張らねば。
 
 中山智香子著『経済ジェノサイド:フリードマンと世界経済の半世紀』(平凡社新書840円)
 (来週発売!)

 まだ読んでいる途中なので、ズルくはありますが、最初と最後を紹介しておきます。この本の意図を一人でも多くの人に伝えて、経済の話だからと倦厭せず、自分で手にもって読んでみてほしいからです。
 この本は帯にあるように、リーマンショック後に英国エリザベス女王がLSE(ロンドンスクールオブエコノミックス)を訪問した際に、「なぜ誰もこの事態を予測できなかったのですか?」、つまり「経済学は何をやっているのですか?」に通じる問いを投げかけたことを紹介している。
 そして、彼女はまさに、この問いを、311後の日本において切実に自問し、これに答えようとして書いたのが本書である。経済学者のはしくれとしてデモに行くだけでは十分ではないから(287-8頁)。
 皆さんは、「経済学」とは何かご存知?本書でも取り上げられているものの(284頁)、日本語では、「経世救民」に由来する。つまり、「世を治め、民の苦しみを救う」ということであったはずであった。しかし、今の経済学、特に新自由主義が蔓延する世界の経済学は、「民を救おうとしているか」?それどころか、民を苦しめる構造を「市場」というものを前面に出すことで強固に創り上げていっているのではないか?・・・それを思想史の変遷とともに、分かりやすい言葉でコンパクトに紹介したのがこの本である。
 
「しかし、統治を実践するのは議会だけではない。実は経済もまた統治的実践の一部門を成している(283頁)」
「しかし日本であれ世界であれ、問題はそれ(経済が統治者目線で行われる)が形骸化し、あるいはフリードマン主義の経済学の場合にように、意図的にうやむやにされているところにある。ほんとうは統治者目線だが国家の統治者ではないので隠れており、市場の陰からこっそり指示を出している。権力の存在を否定する自由主義者は、字はそれだけ一層権力が好きであったりする。しかもその統治は社会の上層部だけに目を向け、不都合な部分から目を逸らすのである(284頁)」

 これは今アフリカの土地奪取問題に取り組む私も実感として抱いている点で、この経済思想的背景が理解できることは非常に有難い。 一見、政治的にやられていること、あるいは「普通」「時流」にのってやられていると思われることも、実は以上のような「市場の陰からこっそり指示を出す経済の動き」が根底にあり、構造がある。このような構造は社会全体の雰囲気までをも創り出す。原発の問題における「原発がないと産業が衰退する」というプロパガンダが、何故か日本で空気のように当たり前に受け止められてきて、311後もそうであるように。
 さて、中身はもっと内容を読んでからにしたい。でもこの本を勧めたいのは、学生や経済に興味をある人は当然として、311後の日本で立ち上がり始めた市民にこそ読んでいただきたいと思う。この間の市民の運動や活動、そうとは呼べない呟きを目に耳にしてきた。そして、長年内外社会の権力構造について考えてきた私には驚くようなことが一杯あった。一人一人の気づきや言葉の中に、本質が鋭くつかみとられているから。自称「普通のママ」と呼んでいる人のそのような言葉と理解の深みに、私は多くのことを学ばせていただいてきた。このような方々にこそ、今私たちが直面している問題の構造、思想的、世界的で歴史的な背景を学ぶために、この本を手に取ってもらいたいと思う。
 また、グローバル世界がどのように形成されてきたか知らないままに、「国際協力」「開発援助」の掛け声をしている人たち、実務者の皆さんにこそ、この本を手にとってもらいたいと思う。もちろん、すべてが悪という話ではなく、皆のやっていることがどのような土台のうえに築かれているのかを学ぶことは、考える上で役立つと思う。国際か国内か…などの違いはない時代ではあるものの、国際潮流に左右されやすい分野であるからこそ、このような変遷を自覚的に学ぶべきだと、私は思う。

 最後に、智香子先生から皆さんへのメッセージが「あとがき」にあるので、少しだけ紹介したい。
「大規模エネルギー技術で経済を回そうとしていた時代の経済学は、何をめざし、何を考えていたのか。デモ友の彼ら彼女らのための知識を、彼ら彼女らに届く言葉で書くことは喫緊の課題であり、また経済関係者に一考を促し、およばずながらずっと福島に心寄せる誓いを立てることでもあった」
「またこの小さな一冊で何ほどのことがなしえるわけでもないだろう。それでも本書はわがデモ友に、金曜日ごとに名も知らぬまま首相官邸前でご一緒した何万人もの人びとに、ほかの街で声を挙げている人びとに、心を込めて捧げるものである。絶対に諦めないでまいりましょう!ささやかなエールを送ります(288頁)」

 エール受け取りました。

中山智香子先生のホームページ
http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/nakayamac/
ブログもよいです。
by africa_class | 2013-01-10 12:20 | 【311】原発事故と問題
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