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三角/南南協力の罠3~モザンビーク住民に暴動されるブラジル企業進出と日本援助(ナカラ回廊PJ)の関わり

続きです。こういうテーマ、日本ではなかなか卒論や修論で選ばないですね・・・。

先に以下を読んでから~。
■三角/南南協力の罠~BRICSが自らを「南」に位置づけ行動の自由を確保するメリットに関するJICA関係者の指摘から学ぶ
http://afriqclass.exblog.jp/17265850
■三角/南南協力の罠2~世界の議論(没政治性問題について)
http://afriqclass.exblog.jp/17274194/

日本では「ブラジル」がどのようなことを世界でして、どう見られているのか知られておらず、安易に「南南協力」、つまり「かつて貧しかった南の国であるブラジルが、今も貧しいアフリカの南の国を先輩として水平的に協力するんだ~」という「牧歌的」な理解が流布しています

これこそ、日伯連携を軸とするプロサバンナ事業の根っこの部分にある問題です。そもそも、日本が援助パートナーとしてブラジルと関わるのであれば、あるいはブラジルを日本の不可欠なパートナーとして位置づけ、一緒にアフリカに乗り込んでいくのであれば、こういうことも調べて知っておく必要があるのですが、「日本が手伝ったブラジルの成功」というストーリーでしか理解せず、進められないために、権力闘争である世界の地政学的現実から遠く・遠くなっていく一方

勿論アフリカ、モザンビークでも、中国企業の進出によって問題などが沢山生じています。そのことは、また別の機会で触れられればと思います。でも、現地では、中国企業への注目とともに、ブラジル企業の進出が大きく注目されています。モザンビークの研究所から、去年中国のモザンビーク進出の本が企画され出版されましたが、今年はブラジルのモザンビーク進出の本が出版さえることに、現地の注目度は象徴されています。

肝心なのは、日本の税金で中国企業のモザンビーク進出を応援しているわけではない・・・という点です。他方、日本は、プロサバンナ事業で、ブラジル・アグリビジネス企業のモザンビーク進出を税金で応援の予定です

なので、「日本との関わり」という点で、モザンビークにおいてブラジル企業がどのように振る舞っているのか、その結果住民にどのように見られているのか・・・は非常に重要な論点です。私は援助が外交のツールであるべきとは思っていませんが、百歩譲ってそう考えている人にとっても、日本の援助の枠組みでブラジル企業のモザンビーク進出を応援することは、外交上も変な話だと思います

なお、ブラジル企業のモザンビーク進出と関係しているのはプロサバンナ事業だけではありません。ナカラ回廊関連の他の日本の援助でも、ブラジルの企業の進出は関連づけて考えられており、関係者の話によると、逆にブラジル企業の進出とブラジル政府の援助との「相乗効果」を狙って、相互乗り入れが予定されています。皆さん、このことを知っていたでしょうか?

自分たちの思い通りにならない、ブラジルという第三国を入れた形で行われる援助。現地社会を十分知らないで行われる援助と共に、なんとも危ういものですね・・・。両方を知っている私からすると、まったくもって論外なスキームです。

1. テテ州でブラジル企業が鉱山開発と住民暴動
2. 日本の援助:ナカラ回廊プロジェクトとブラジル鉱山・企業・援助の関係

1. テテ州でブラジル企業が鉱山開発と住民暴動
2009年11月から2010年4月にかけて、モザンビークの最大級の炭鉱(テテ州)開発のために、ブラジルの鉱山会社Valeは、モアティズ郡の23,780ヘクタールの土地をモザンビーク政府から貸与され、これは1313世帯(5千人)の立ち退き・移転を招く結果となった。 移転後農民たちは沢山の問題に直面し、当初Vale社がしていた約束の大半は実現していないことが明らかに。

ここら辺の話は、以下の論文に詳しい。
Mosca, João & Selemane, Tomás. 2011. El dorado Tete: os mega projectos de mineração. Centro de Integridade Pública, Maputo, November 2011.
→http://www.cip.org.mz/cipdoc%5C106_EL%20DORADO%20TETE_Mosca%20e%20Selemane_CIP_2011.pdf

その結果、住民らが起こした冒頭についての報道は以下。
Hanlon, Joseph. (ed.). 2012. Protests against Vale coal mine relocations. MOZAMBIQUE 193 - News  reports & clippings. 31 January.
http://www.open.ac.uk/technology/mozambique/pics/d135466.pdf

Valeに対する暴動~鉱山のための住民移転問題
「(2012年)1月10日、テテ州の道路と鉄道を500を超える家族が封鎖した。それは、Vale社がモアティズの新しい炭鉱開発のために住民を移転した後に行うと約束していたことをしなかったからだ。これは1日にわたって続き、機動隊が招集され、14名が逮捕され、内9名が2日間拘留された。

当初政府は、住民の抗議に批判的に、警察のアクションを支持したが、23日になると、テテ州知事Alberto Vaquinaは、デモストレーターらの抗議は有効であると述べた。750の住宅のうち400までがきちんと建てられておらず、修繕が不可欠で、水や農業の支援も供給されていないと述べた。

そして1月18日Vale社の社員はようやく問題を認め、解決に動き出した。この問題はもう2年にわたって蓄積されたものであり、2010年4月には、小さな抗議が既に起こっていた。Vaquina知事は委員会を設置した。住民らの運動者は、2011年10月に政府や国会議員とマプートであっていた。12月20日には、移転先のカテメ村からVale社と政府に手紙が送られ、1月10日までに返事が要求された。しかし、何の回答もなく、したがって、道路と鉄道が封鎖された。

Vale社は、1月27日、ダボスの世界経済フォーラムにおいて、NGOらより、「最も悪い企業としてPublic Eye」賞を受賞した。その理由は、「繰り返しの人権侵害、非人間的な労働環境、自然の躊躇なき破壊」であった。

現在、「Vale社に影響を受ける民衆の国際ネットワーク・ International Network of People Affected by Vale (Articulação Internacional dos Atingidos pela Vale)」が立ち上がり、モザンビーク、ブラジル、カナダの労働組合や運動家らを統合している。

2. 日本の援助:ナカラ回廊プロジェクトとブラジル鉱山・企業・援助の関係
そして、このようなブラジル企業の進出と住民暴動、そして援助と日本は無関係ではありません。

■ナカラ回廊経済開発戦略策定プロジェクト
http://www.jica.go.jp/project/mozambique/002/index.html
期間:2012年3月2日から2013年12月20日
サイト:ナンプラ州、ニアサ州、カーボデルガド州、ザンベジア州北部7郡、テテ州 (面積約44万平方キロメートル)
「近年、ナカラ回廊地域を構成する北部のナンプラ州、ニアサ州、カーボデルガド州、ザンベジア州、テテ州のうち、テテ州における石炭等の天然資源開発、ナンプラ州、ニアサ州およびザンベジア州での広大な土地および豊富な水資源を活用した農業開発、さらに、天然の良港であるナカラ港が有する国際ゲートウェイとしての可能性など、これらのポテンシャルを基軸として、ナカラ回廊地域は、今後の経済開発・産業振興が強く期待される地域であると考えられています。(略)ナカラ回廊地域全体の開発規範(計画)がないまま、鉱業を中心とする民間レベルの投資が局所的に開発を牽引する形となっています。その結果、民間レベルの産業と自国およびドナー支援により整備されるインフラ施設の相互連関が確立されないまま開発が進められているほか、法的規制もなく虫食い状態の開発が進められています。この状況から、外国資本によるモザンビークの資源、労働力、土地の収奪、環境破壊といった様々な事態が懸念されています。こうした状況から、対象地域において実施されている民間投資活動、ドナー支援協力などの広大な地域において実施されている多様なプロジェクトの現状、プロジェクトの相互連関とその影響の有無、更なる開発ポテンシャルやリスクの潜在性、制約要因等を把握し、ナカラ回廊地域における適切な開発・投資の促進と持続的な経済発展のための全体像となる開発計画の策定が求められています。」

素晴らしい説明なのですが、現実問題、関係してらっしゃる方々に数か月前お会いした際、住民暴動のことはまったくご存知ではおありではありませんでした。ナカラ回廊の先っぽにある、ナカラ国際空港立地場所(これもブラジルの援助)で住民移転をめぐって抗議運動があったことも、指摘するまでご存知ではありませんでした。むしろ、テテのブラジル鉱山企業が自前で鉄道を敷くので、ナカラ鉄道を接続するのに協力するという話を熱心にされていました。

ナカラ回廊は、内陸部で鉱山開発をするブラジル企業にとって重要なルートなだけでなく、その回廊沿いにブラジルのアグリビジネスが農業投資を行ない、インフラもブラジル企業と援助の「官民連携」で整備していくことで「ブラジル産業の大動脈とする」ことを狙っているのですが、そこに日本も援助で、インフラ整備と農業投資の側面支援する・・・ということが当たり前に話されています。

勿論、ナカラ回廊沿いの鉄道や道路の改善も必要です。しかし、今モザンビーク北部で起きている現象は、まさに以上のナカラ回廊調査プロジェクトでしっかり「負の遺産」も含めて検証されなければならない点が沢山含まれています。

①鉱山開発であれ農業投資であれの土地奪取、
②住民移転をめぐる住民との協議の不足と移転後の問題、
③それによる住民暴動や不審、
④他国の一企業が鉄道といった公共インフラを輸出のために自力で用意し使うことへの国民の反発…等々です。

企業利益を優先するのか、住民の権利を優先するのか?という問いが、抜き差しならぬ状態で発生しており、「win-win」などという表面的な表現では表されない問題が「経済成長至上主義」の掛け声の中起こっています。

そのことを調査するのでなければ、そしてその上で「誰の何のため、誰とどう組んでこの地域の支援を行うのか?」を検討するのでなければ、この調査案件もまたどのような意味があるんでしょうねえ。

まあ、皆さんにヒントや資料を沢山提供していますので、どうぞ報告書等にしっかり入れ込んでくださればと思っています。私こそ、コンサルタント料もらうべきですよねえ・・・。な~んて。

「知は社会に帰属すべき」という理解のもと、今日もせっせと自分の得にまったくならないことばかり(逆に本当のことを書いているので、利益という点では非常に損?覚悟の上ですが)を書き散らしている私です。皆さんの何らかの役に立っていれば幸いです。
by africa_class | 2013-02-06 19:08 | 土地争奪・プロサバンナ問題
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