もうすぐ大学院生たちがやってくる。今年卒業する2名のゼミ生と2名のサブゼミ生たちのお祝いで。数年前の卒業生も含め大所帯9名+アブディンの家族たち。大活躍だった銀河くんがタンザニアなのは残念。彼らが押しかけてくる前に、片付けるべき学会の報告概要の数々・・・今2学会のものが終わったので、とりあえず学生のことをしたいと思う。
今年の学部ゼミ生たち15名の卒論も、凄かった。なんというか、彼らの「汗と涙の結晶」であることは間違いのない出来栄えで、最後の最後まで諦めずに納得のいくものを出そうとし続けた彼らの頑張りに、全員に、私は心からの拍手を送りたい。そして、一人一人表彰したいほど。
申し訳ないことに、私は、彼らに「教えること」は多くなかった。それを期待する向きがあるのも知っているが、「教えてほしい」との想いが見えるほどに、私は「教えない」ことに徹してしまう。天邪鬼なのもあるけれど、皆に「自分の心で感じ、自分の頭で感じ、自分の手で書いてほしい」と切に願っているから。
人生は長く、曲がりくねっていて、しかも1度きりだ。
多くの場合、人生とは思い通りにいかないものだ。
そして、その人生を歩んでいく皆は、独りっきりた。
どんな素晴らしいパートナーを得ようとも、やっぱり皆は皆の人生において、皆の身体において、一人である。
だから、働き始める直前のこの最後の機会に、徹底的に、「われ独り社会にあり」の意味を考えてほしいと思うから。皆が求めれば求めるほど、私は皆に「答え」をあげないようと心がけてきた。
しかし、今の若者は「答え」がほしい。息苦しいから、他者に答えを求めがちだ。あの1995年の大震災とオウム事件が同時に発生したときのような空気を、あの時学生時代の最後を過ごしていた私は嗅ぎ取る。と同時に、あの時多くの若者が新しい自分、仲間、力を発見していったように、そのような兆候も感じる。だから、私は決して皆に「答え」を押し付けないようにとしてきた。
もちろん、私はこのブログやツイッターで好き勝手に自分の考えや主張を述べている。でも、それは教室ではしない。それでいいのか分からないけれど、それはしない。皆が自分で考えることだから。でも、機会はいくらでもあげたいと思っている。
と同時に、皆の不安に、そっと寄り添う存在でありたいと思う。どうしようもない時の「最後の防波堤」で今後も居続けたいと思う。皆の中に押しとどめられている数々の想い、自分で気づかないような・・・それに、答えを出すのではなく、耳を傾け、一緒に発見したいと思う。でも、まずは同級生、先輩たちとやろうね。その方がずっと力になる。なぜか分かる?
なぜなら、彼らとて、彼女らとて、「誰にも相談できない・・・」と悩んでいるから。
あなたが相談すれば、あなたが心を開けば、救われる人がいるのだということを、是非気づいてほしい。あなたが相談するから、向こうも相談できる。そうすることで双方向の深いやり取りが生まれる。それが、「新しい豊かなコミュニティ」を形成する。それを知り、自分でコミュニティを形成していける人生と、そうでない人生では雲泥の差。そして、それが無数にあちらこちらで形成され、大きな束になって社会は変わっていけるかもしれない。
このゼミ生の多くがそれを互いのやり取りの中で、先輩の背中を見ながら学んでいるけれど、他の人達にも少しお裾分け。あ、、、本題が遠のいていきました。
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さて、今年の15名の卒論タイトルは以前お伝えした通り。いずれも渾身の策。
http://afriqclass.exblog.jp/17157727/
これにもう一人、白土久美子の「ベナンの民主化」が加わる。
去年の優秀論文の推薦文4名分
http://afriqclass.exblog.jp/14641121/
http://www.tufs.ac.jp/insidetufs/kyoumu/yushuronbun23.html
外大のホームページに論文が掲載。
彼らの卒論製作秘話
http://afriqclass.exblog.jp/14644859/
http://afriqclass.exblog.jp/14651272/
今年も力作ぞろい。3名を推薦するつもりが、今年は1名だけが「原則」という。粘りに粘ったが、ダメだった。がしかし、外大の教員の大半はゼミ生が10名以下の先生ばかり。15名を超える卒論を担当した先生はごく数名。しかも、推薦できるほどの論文をいくつも指導し、推薦文を書くという手間を惜しまず書きたい先生が何人いるのだろうか?行政的な「横一列」ではなく、10名以上の卒業論文を書いた学生がおり、その先生が自信を持って推薦できるのであれば、2名でも3名でも推薦すべきだと思う。外大に来て9年。学生の内的な力を信じ、その成長を願い、日々をすごしてきた私としては、こういう画一的な対応こそが、若者の力を伸ばさず、日本社会を停滞させる根本だと思う。とはいえ、仕方ないので、教務に出した推薦状をここに一挙掲載。(土屋亜希子論文への推薦文は、後日掲載予定。少し時間下さい)
そして、現在HPで全論文を公開すべく準備中。お楽しみに。
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平成24年度推薦卒業論文 推薦文
「北アフリカにおける持続可能な水不足対策~持続可能性三本柱による分析から 」
論文執筆者:フランス語専攻 山口絢子
本論文は、近年、温暖化や人口増加、大規模農業開発などにより水不足が急速に進む世界の現状を踏まえ、特に水不足が深刻化する乾燥地・北アフリカ地域に焦点を当て、同地域において持続可能な水不足対策はどうあるべきかに迫った論文である。水不足対策として供給量の増大に議論を限るのではなく、持続可能性を評価の軸に据え検討が行われた点に、本論文のユニークさがある。本論文で使用された資料は、英語74点日本語4点に上り、かなりの部分が理系の資料であるにもかかわらず、本テーマについて丹念な検討がなされた。
本論文のキー概念となる持続可能性については、総合的持続可能性学を掲げるジョニー・ポープらによる「環境性」「経済性」「社会性」の三本柱が用いられ、北アフリカの地域性(特に農業手法の在り方)から、三本柱のいずれの指標を用いても排水再利用が優れたアプローチであるとの結論がまずは示された(第一章)。その上で、二章では、排水再利用を用いたチュニジアとモロッコの事例について、持続可能性の三本柱を用いた分析枠組みを用いて詳細なる比較検討がなされた。その結果として、モロッコの事例では、排水再利用が住民の健康被害をもたらしたこと、従って「社会性」という点では疑問が残ったことが明らかにされた。一方、排水の適切な処理を行うための法律の整備や組織づくりを行ったチュニジアの例により、予防策の徹底により排水再利用が「社会性」を獲得することが可能であることが示された。
しかし、本論文の結論はここで終わらない。以上の2事例の比較研究により、水不足対策研究の問題点を明らかにしているのである。それは、これらの先行研究の多くが、(1)理系的な問題関心から書かれているため、評価の軸が「環境性」「経済性」に偏る傾向がみられ、(2)「社会性」への注目が不十分であること。そして、(3)そのことが結果として、排水再利用を奨励する際に不可欠な視点や対策を軽視させる結果になったとの指摘は重要である。本論文は、これら検討と結論によって、二事例の「成功」と「失敗」の議論を超えて、より大きな文脈での水不足対策の議論に寄与することができたと考える。
なお、執筆者は、本論文が焦点とした北アフリカに近い中東カタールで2年の期間をすごし、水不足の問題の深刻さを痛感し、数多くの理系英語論文にも音を上げず、本テーマに取り組み続けた。その努力の成果としても、推薦するに相応しい論文と考え、本論文を推薦する。
「民間セクター開発におけるバリューチェーン支援の有効性~エチオピア皮革産業の事例から」
論文執筆者:フランス語専攻4年山岡優里
本論文は、2005年のグレンイーグルス・サミットにおいても注目されたサハラ以南アフリカの民間セクター開発について、エチオピアにおける皮革産業を具体的な事例として取り上げ、その有効性について、次の二点((1)質の向上と付加価値づけに寄与したかどうか、(2)そのことが貿易拡大に繋がったか)に焦点を当て、検証したものである。
アフリカにおける民間セクター開発については、日本政府もアフリカ開発銀行とともに共同イニシアティブEPSAを立ち上げ、1億ドルもの円借款供与を行ってきた。製造業が低調なアフリカにおいて、民間セクターをより改善させていくことによる貿易拡大は雇用を広げ、所得向上の可能性を高めるのではないかという問題意識に基づき、執筆者はこのテーマを選択した。特に、民間セクター事業の改善において、バリューチェーン支援が果たす役割に注目し、その是非を同国政府による支援策(PASDEP、2004年に実施)とUSAIDによる外部支援(2006年に実施)策を比較することで結論を導き出している。
本論文の構成は次のようなものであった。まず第一章で、エチオピアにおける民間セクターの概要を整理した上で、民間セクター開発の貿易拡大への貢献について検討を加えた。その上で、民間セクター開発の議論において、バリューチェーン支援についてどのように議論されてきたのかについて取り上げる。以上は、先行研究の整理によって行われる。続く第二章では、本論の事例である皮革産業に焦点を当て、PASDEPとUSAIDによる支援策を比較し、その有効性を検証した。これらの執筆のために検討した論文は、英語論文70点、日本語文献30点を超えている。
以上の検討の結果、執筆者は、(1)の「質の向上」については、PASDEPは部分的な支援に留まったため成果が限定的で、一方のUSAIDの支援は質の向上に寄与したと結論づけている。また、「付加価値づけ」については、PASDEPには当初からこれを念頭においておらず、最終製品としての革製品作りを目指したUSAIDと大きな違いがあったことが示された。次に、(2)については、PASDEP実施後に輸出総額は伸びをみせずむしろ減少したのに対し、USAIDの支援後は28.8百万米ドルの増加がみられたという。同国皮・皮革産業組合によると、低価値の皮から高価値の革製品に生産物が移行できたことが輸出増加に結びついたと述べられている。以上二つの事例の比較検討から、本論文によって、民間セクター開発の中でもバリューチェーン支援を行うことの意義が示され、これがアフリカでも有効であることが明らかにされている。限界として、エチオピアの皮革産業支援だけを事例としていること、今後の他事例との比較なども求められること、そして効果の持続性なども指摘されるが、世界中の数多くの英語・日本語論文を検討した本論文は、推薦するに値する卒業論文と考え、ここに推薦する。
なお、執筆者は、エチオピアに2年にわたって暮らし、同国の民間セクターをどうすれば応援できるかの視点に立って現地での生活を送り、3年にわたって粘り強く研究に取り組んできた。本卒業論文は、5 年間にわたるゼミでの研究の集大成に相応しい論文となった。
2013年2月22日
推薦者 舩田クラーセンさやか
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