●報告者 (座長:大林稔) 1.「311以後の東北農業~農民を根なし草にしようとする政策と抵抗する農民」(谷口吉光、秋田県立大学生物資源科学部) 2.“Legal and Ethical Implications of Land Grabbing"(アンドレアス・ニーフ、京都大学) 3.「農業投資と農民主権~種から考える」(西川芳昭、龍谷大学) 4.「農業開発援助と農民主権~モザンビークを中心に」(舩田クラーセンさやか、東京外国語大学) ●コメンテイター 熊代輝義(JICA農業農村開発部長)/ 西川潤(前国際開発学会会長)
しかし、「熱帯サバンナ」とは、その一般的イメージ「草原サバンナ」ではなく、乾季雨季が明確に分かれた気候帯のことを指し、一定の雨量があるため農業に適しているが、多くの場合セラードと同様「森林サバンナ」地帯であった(Distributed Active Archive Center for Biogeochemical Dynamics)。また、事業対象地のモザンビーク北部地域は、土壌の酸性が強く人口が少ないセラードの特徴と異なり、最も肥沃で水資源に恵まれ、農業生産が盛んで人口が最多(全人口の4割)であった(舩田クラーセン2013)。モザンビークに在外公館・JICA事務所が設置されて10年も満たない2009年、地域社会や農業の十分な知見も経験も蓄積がないまま、合意後半年間準備調査を行っただけで、「モザンビーク北部1400万ヘクタール(日本耕地面積の3倍)を対象に、中小農民40万人に直接、360万人に間接の裨益」と喧伝される巨大事業が、食料価格高騰・G8サミット・国連総会を経て、始動したのである。
3.モザンビーク農民組織、市民社会からの異議申し立て 合意から数年が経過した2012年4月、日伯の官民連携ミッションのモザンビーク北部訪問前後から、現地社会や国際社会で同事業への疑義が表面化し始める。この頃、ブラジルのアフリカへの積極的な進出が顕著になり、鉱物開発企業を筆頭にアグリビジネス界も活発な動きを展開する。このゲートウェイとされたのがモザンビークであった(Schlesinger 2012)。前年に同地を訪問し、安価で環境規制の緩いモザンビーク北部の肥沃な土地に熱狂したブラジル綿花業界関係者だけでなく(Reuters 15 Aug. 2111)、前述ミッションのブラジル側団長ニシモリ議員の「プロサバンナ事業は土地不足の伯国の若者が近代農を大規模展開するための事業」との説明が(議会TV 27June2012)、モザンビークの農民組織や市民社会、国際NGO等に危機感を抱かせるようになる。これらの組織は、3か国の関係者に聞きとり調査を行い、JICAなどに説明を求めたが懸念を一層深め、2012年10月には、同国最大の農民組織UNACが、「不透明で、農民組織を排除するトップダウン事業」「農民の土地収用イニシアティブ」と、プロサバンナ事業を批判する声明を国内外に表明した(UNAC 11Oct.2012)。
本年4月には、モザンビーク4団体を含む世界23団体・1国際ネットワークが、マスタープラン中間報告を入手し分析した結果、次を警告した。①真の目的は大規模土地収用に道を開くこと、②地元移動農法「撲滅」が喫緊課題と断定、③「定着農・近代農」に転じた農民にDUATs付与、④どこで誰が何を作るか指定するゾーニング案を有す(JA et al.29Apr.2013)。投資のため、地元農民の主権と営みを著しく侵害する計画と指摘されている。確かに同報告は、権利侵害の抑制効果がないRAIを重視し、企業の土地収用を確実にする抜け道を多数用意している(ProSAVANA Report 2)。前節で示した「農業投資が唯一の処方箋」「投資家は現地の人々と対等」「規制排除」が顕著に表れた計画といえる。
【参考文献】●麻生太郎(2009)「食料安全保障の永続的な解決」、●NHK取材班(2010)『ランドラッシュ』新潮社、●外務省(2009a)「海外投資促進に関する指針」、●外務省(2009b)「官民連携モデルのイメージ」、●外務省(2009c)「責任ある国際農業投資の促進に関する高級実務者会合」、●JICA (2008)『南部アフリカ地域援助研究会報告書』、●G8首脳宣言(2009)、●舩田クラーセン「 変動する世界における経済成長至上主義の席巻と内発的発展」近刊、Negrão, José (2003) “A Propósito das Relações entre as ONGs do Norte e a Sociedade Civil Moçambicana”、●Schlesinger, Sérgio (2012) “Cooperação e investmentos internacionais do Brasil”. ●WB (2009) “Notes: Africa’s Sleeping giant: prospects for commercial Agriculture in the guinea Savannah Zone and Beyond”.(詳細配布)