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【徒然】伊藤詩織さんを取材したBBC番組後の一連のやり取りを踏まえた論点&私の考え(前半)

ずいぶん久しぶりとなりましたが、皆さんのところでは新型コロナの状況は如何でしょう?来週帰国するはずが、乗るはずだった飛行機すら無くなってしまい、ドイツに留まったままな感じです。地球上に散らばる、皆さんのご健康とご無事を祈ってます。

さて、今年6月にツイッター上で、伊藤詩織さんのBBC放送の件で、私も色々ツイしたんですが、なにせ140文字の連ツイなので、誤解も生みやすいので、まとめてブログに記載しながら説明しようと思って、早4ヶ月。特に、6月は、まだ社会活動もしていて、かつ毎日のように朝から晩まで畑に出ていて、かなり時間的・体力・思考的余裕がない中で書いていたので、誤字脱字、見落とし多し、表現に問題ありなので、きちんと書き直そうと思ってたんです。が、次のブログで紹介する学会報告のための論文作成と、8月中に出すはずだった原稿2つもあったりで後回しにしてたんですが、意見をたずねて下さる方達がいるようなので、とりあえず暫定版ということで、まとめておきます。

なお来週学会発表なんで、それ以降にまた見直して、次の段階の議論ができればと思います。
(*ツイッターやってないと分からないかもなので、念のため。「ツイ」=ツイート/つぶやき、「RT」=Retweet=転送・引用みたいなものです。「連ツイ」=連続したツイートのこと。)

追記>
ツイッターでその後同じ指摘をもらっているので、ここにまとめて書いておきます。
・分かりづらかったかもですが、6月時点の論点が抽出されています。
・8点の論点を「前半」「後半」に分けて、6月時点のやり取りで示した考えとその背景を説明しています。
・その後Aさんから頂いた論点については、その次(「後半」の後)の記事(「番外編」)で中心的に扱います。そのためには、いくつか事前に作業が必要です。これらにことについては、Aさんにも連絡してあります。
・なお、以下の論点の(4)と(5)が二つに別れているのは、伊藤氏の英語に関する(4)に関するツレの見解が、(5)に連動するものではないという理由からです。(5)はツレを含めた視聴者のバイアスについてです。時間がなくて上手くかけなかったので、この部分はいずれ加筆修正します。この(5)は「番外編」に関わっていきます。
・以上の作業は、今週は仕事で忙しいので、来週の作業になるだろうと告知してあります。


【背景情報(1)ー伊藤詩織さん出演のBBC番組とその後】

①2018年6月28日 BBCチャンネル2での放送
伊藤詩織さんに取材した番組 "Japan's Secret Shame"を放送
https://www.bbc.co.uk/programmes/b0b8cfcj
*1時間の番組のハイライト抜粋動画が4つアップされている。


「日本の秘められた恥」  伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44638987

以下、案内記事の一部:
BBCは28日夜、強姦されたと名乗りを上げて話題になった伊藤詩織氏を取材した「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」を放送した。約1時間に及ぶ番組は、伊藤氏本人のほか、支援と批判の双方の意見を取り上げながら、日本の司法や警察、政府の対応などの問題に深く切り込んだ。制作会社「True Vision」が数カ月にわたり密着取材したドキュメンタリーを、BBCの英国向けテレビチャンネルBBC Twoが放送した。

番組では複数の専門家が、日本の男性優位社会では、被害者がなかなか声を上げにくい状況があると指摘した。伊藤氏はその状況で敢えて被害届を出し、さらには顔と名前を出して記者会見した数少ない日本人女性だ(後略)」


③BBCの字幕の問題
あとで取り上げますが、この番組での伊藤さんの英語や字幕の問題は、前から指摘されており、その点は念頭に置いておいて下さい。詳細は、一言一句丁寧に検討した翻訳家のかつみさんのNote記事をご覧下さい。
https://note.com/tkatsumi06j/n/nf728bf9ac6bf?magazine_key=mec52a50adf6e

④2020年6月8日、伊藤詩織さん「Twitter訴訟」開始記者会見
伊藤詩織さん、そして彼女が登場した2年前の放送が、ネット上で再び注目を浴びることになったきっかけ。

同日の読売新聞の報道の一部↓
https://www.yomiuri.co.jp/national/20200608-OYT1T50190/
「ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之氏から性的被害を受けたと訴えている問題で、伊藤さんが8日、この問題に関するツイッターへの投稿で名誉を傷つけられたとして、投稿した漫画家ら3人に計770万円の損害賠償や投稿の削除などを求める訴訟を東京地裁に起こした。

 訴状によると、「はすみとしこ」のペンネームで活動する漫画家は2017~19年、伊藤さんが就職先の紹介を受けるため、意図的に山口氏と性的行為に及んだなどとする趣旨の投稿をしたと…他の2人は男性で、漫画家の投稿を拡散したという。伊藤さんは「投稿内容が極めて悪質で、性的被害に続くセカンドレイプ(二次被害)だ」と主張…」


3年前に実名を出して記者会見した後、ツイッターに事実と異なる投稿をされて名誉を傷つけられたとして、自らの性被害を告発したジャーナリストの伊藤詩織氏(31)が8日、投稿した3人に計770万円の損害賠償と投稿の削除などを求める訴えを東京地裁に起こした。

 伊藤氏は提訴後に都内で会見を開き、「言葉は人を傷つけ、時に死においやる。これ以上、言葉で人を傷つけることがないよう何か行動を起こさなければいけないと思った」と提訴した理由を語った。

 伊藤氏は望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして元TBS記者の山口敬之氏(54)を告発したが、山口氏は刑事事件では不起訴となった。伊藤氏は山口氏を相手取った民事訴訟で昨年12月に勝訴したが、山口氏が控訴している。

 今回の名誉毀損(きそん)訴訟で問題とされたのは、伊藤氏が2017年5月、下の名前を公表して性被害を訴える記者会見を開いた後の同年6月~19年12月、「はすみとしこ」のペンネームで活動する漫画家がツイートした5件。

 訴状によると、18年2月には「山口」と書かれたTシャツを着た女性の絵に「試しに大物記者と寝てみたわ」「枕営業大失敗!!」など書き添えた漫画を投稿。昨年12月に伊藤氏が勝訴した後の投稿では、涙を浮かべた女性を描き、「裁判なんて簡単よ! カメラの前で泣いてみせて裁判官に見せればいい」などと記した。他の3件も同様の内容が書き込まれた。

 伊藤氏は漫画の女性は自身だと指摘し、一連の投稿について「顔と実名を明らかにして性被害を訴えたのに、投稿は逆恨みや金銭目当ての虚偽の訴えと断じていて、極めて悪質」と非難。「性被害に続くセカンドレイプ(二次被害)というべき深刻な名誉毀損だ」と主張している。

 問題の投稿5件の一部をリツイート(転載)した2人も訴えた。元の投稿を他人に紹介するリツイート機能は、賛同だけでなく批判や議論を提起するためにも使われるが、2人はリツイートの前後に自らの意見を付け加えていないため、伊藤氏は「賛同していると理解するべきだ」と指摘した。(新屋絵理)

3年前に実名を出して記者会見した後、ツイッターに事実と異なる投稿をされて名誉を傷つけられたとして、自らの性被害を告発したジャーナリストの伊藤詩織氏(31)が8日、投稿した3人に計770万円の損害賠償と投稿の削除などを求める訴えを東京地裁に起こした。

 伊藤氏は提訴後に都内で会見を開き、「言葉は人を傷つけ、時に死においやる。これ以上、言葉で人を傷つけることがないよう何か行動を起こさなければいけないと思った」と提訴した理由を語った。

 伊藤氏は望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして元TBS記者の山口敬之氏(54)を告発したが、山口氏は刑事事件では不起訴となった。伊藤氏は山口氏を相手取った民事訴訟で昨年12月に勝訴したが、山口氏が控訴している。

 今回の名誉毀損(きそん)訴訟で問題とされたのは、伊藤氏が2017年5月、下の名前を公表して性被害を訴える記者会見を開いた後の同年6月~19年12月、「はすみとしこ」のペンネームで活動する漫画家がツイートした5件。

 訴状によると、18年2月には「山口」と書かれたTシャツを着た女性の絵に「試しに大物記者と寝てみたわ」「枕営業大失敗!!」など書き添えた漫画を投稿。昨年12月に伊藤氏が勝訴した後の投稿では、涙を浮かべた女性を描き、「裁判なんて簡単よ! カメラの前で泣いてみせて裁判官に見せればいい」などと記した。他の3件も同様の内容が書き込まれた。

 伊藤氏は漫画の女性は自身だと指摘し、一連の投稿について「顔と実名を明らかにして性被害を訴えたのに、投稿は逆恨みや金銭目当ての虚偽の訴えと断じていて、極めて悪質」と非難。「性被害に続くセカンドレイプ(二次被害)というべき深刻な名誉毀損だ」と主張している。

 問題の投稿5件の一部をリツイート(転載)した2人も訴えた。元の投稿を他人に紹介するリツイート機能は、賛同だけでなく批判や議論を提起するためにも使われるが、2人はリツイートの前後に自らの意見を付け加えていないため、伊藤氏は「賛同していると理解するべきだ」と指摘した。(新屋絵理)


【背景情報(2)ーツイッター上でのやり取り】

この日を境に、ツイッター上では伊藤さんへの批判ツイートが大量に流れ始めました。その中に、このBBCの番組に関するツイートがあり、この番組を観ていた私は大変違和感をもつ投稿を目にするようになります。

そこで、海外在住の日本女性の方(仮にAさんとしておきます)の以下のツイとその方が引用されているツイに反応しました。

●6月11日 22時53分(Aさん)
日本のネガキャンはやめて欲しい。そりゃ痴漢とかはいるけど、『誰でも性暴力や性的暴行を経験しているんです』はないでしょう。移動詩織さんによる日本人女性ヘイト発言に抗議します。

この方は、元々、男性名称の匿名アカウント(仮にBさんとしておきます)からの以下のツイをRTする形で発信されていました。

●6月11日 22時30分(Bさん)
【拡散希望】次のハッシュタグを提案します  伊藤詩織さんによる日本人女性ヘイト発言に抗議します  伊藤詩織 氏が英BBCで世界へ発信した『日本社会で育つと』『誰でも性暴力や性的暴行を経験しているんです』は  嘘 です「そんな事ない」「全員だなんて嘘だ」日本人女性が声を上げています

Bさんのツイには、4つの画像が添付されていました。

①BBC放送の一場面(伊藤さんが学生と映っている)の画像(以下の字幕付き)
「誰でも性暴力や性的暴行を経験しているんです」

②「3人目!ちなみにうちにも高校生の娘がいますが、先ほど聞いたらそんな経験ないと言っていましたので4人目!もう伊藤さんの嘘は確定ですね」(同日22時7分、匿名)

③「私もレイプされた事、無いですよ。さも日本人男性は殆どがレイプ魔みたいに言うんですね、この方!」(同日、21時47分、匿名)

④「私は日本人女性として二十一年間、日本に住んでいます。強姦など一度も遭っていません。遭っている方は遭っているかもしれませんが、私は遭っていません。伊藤氏の根拠のない発言は明らかに日本への差別です。私は遭っていません。何度でも言います。遭っていません」(時間不明、匿名)

さて、これらのツイが毎日のように私のフォロワーさんから一気に流れてきたことを受け、以下のツイをAさんに送りました。

●6月14日 19時15分
大丈夫?オーストラリアに本当に住んでるなら、その認識、オーストラリアの女性に示してみて。でも、まず現地の警察に問い合わせて。日本でも同様ですが、「痴漢は性暴力」です。性暴力でない痴漢があれば、例をあげて教えて下さい。そして、「ヘイト」の理解、間違ってます…。英語でお調べ下さい。

「背景(1)」にも書きましたが、この時期(SNS訴訟直後の)の日本語ツイッターランドでは、伊藤詩織さんへのバッシングの嵐が起きているともいうべき状況になっていました。女性の方のようだったので、煽られたのかなと思い、こんな風に書いたんですが、不快感をもたれたとのことでツイでもお詫びしましたが、ここでもお詫びしておきます。

その上で、何を私が問題と思ったのかについて、連ツイしましたが、どうも全部のツイが表示されているわけではないようなのと、一ツイは140文字、かつ時差や時間の都合もあり、当時(6月)Aさんといくつかやり取りしましたが、そのうちにAさんのアカウントが一時停止になったり、その後私が彼女にブロックされてしまったので、そのままにしていました。

しかし、このところ、Aさんが私のTLに頻繁に現れるようになったので(私へのブロックを解除され、また私宛のツイートから私のアカウントを外さずに「いいね」を繰り返し押してらっしゃるからだと思いますが、技術的なことは良くわかりません)、会話を求めてらっしゃるのかなと思い、フォローをしたところ、ご連絡下さったので、その旨伝え、とりあえず、ここに改めて、私が何を何故、問題と思ったのか、整理して、リンクをお送りすることにしました。

【論点】

さて、AさんとBさん、あるいはBさんが添付されている以上のツイで、私が論点と思いやり取りした点を紹介します。なお、どうもAさんの周囲の方々は、私がAさんのツイだけを見て書いたと思ってらっしゃるようですが、AさんはBさんの問題提起を受けて、その提案どおりにタグ(伊藤詩織さんによる日本人女性ヘイト発言に抗議しますを使ってらっしゃるので、Bさんの主張とBさんによってぶら下げられている①〜④までの画像内容も賛同の上、ツイをされていると判断してのことでした。

以下の整理もその理解に基づきます。Aさんが、実はBさんやその添付内容に全面的に賛同している訳ではなかったという場合は、ご連絡いただければ、ここに訂正を入れたいと思います。

(なお、一点すでに分かっている点としては<後のやり取りで分かったこととして>、Aさんは、「痴漢は性暴力」とされています。その上で、everyoneと表現されたことを問題視されていることをここで書いておきたいと思います。ただし、伊藤さんが痴漢をそもそも入れていたことが前提だったか、"sexual assault"についてはどう理解されているか確認できていません。)

いずれにせよ、論点に入る前に、このブログ読者へのお願いは、BBC動画の全部(少なくとも、問題になった2つ目の動画)を観て頂けるようお願いいたします。日本からだと難しいかもしれませんが、色々工夫して検索してみて下さい。やはり、原典にあたるというのは、どんな時も重要だと思います。(https://www.bbc.co.uk/programmes/p06bswgq)。

その上で、私が論点として考えて、やり取りしたことを列挙します。

(1)伊藤氏の発言内容(sexual violence/assault)に「痴漢」は入っていたのか、否か?
(2)入っていたとすれば、「痴漢」を「sexual violence/assault」に加えることは妥当か?
(3)伊藤氏発言の「everyone」は「一人残らず全員」を意図したのか?
(4)そもそも伊藤氏の英語は番組視聴者にはどう受け止められるのか?
(5)英語の番組視聴者に、(2)と(3)の点はどう受け止められるのか?
(6)そもそも「ヘイト」とは何か?
(7)この番組発言を「日本人女性ヘイト」と言えるのか?
(8)この番組によって海外の日本人女性は被害を受けるのか?

他の論点も沢山あると思いますが、とりあえず6月にやり取りしたことに関連してのみ、ここにあげておきます。

【以上の論点に関わる私の考え】

以上の(1)〜(8)まで、一つずつ見ていきたいと思います。ただし、大前提として、(v)からいかないと、その他の論点(字幕問題を含む)にも行き着けないので、順不同でいきます。

(4)そもそも伊藤氏の英語は番組視聴者にはどう受け止められるのか?

伊藤さんは英語を大変流暢に話されますが、単語の選択や構文において、ネイティブのように正確・完璧ではありません。そして、米国英語を土台として(単語選択や表現は依然米国英語のまま)、この間、英国風に発音を調整されているところかと思われます。ひとさまの英語をとやかく言う身分にはありませんが、この件では、大変重要なポイントですので、まずここはしっかり確認しておきたいと思います。

この件に関し、ツレ(ドイツ・英国・日本の大学に在学・留学経験あり、ドイツ語・英語・日本語がネイティブ並みで日・英・独の翻訳通訳を35年している、50代白人男性、日本25年在住)と動画を観た上で確認した結果をシェアします。(6月のツイでもこれはシェアしたかと思います)

・英語ネイティブではないとすぐ分かる。故に、その前提で聞く。
・発音は流暢だが、構文・単語選択において拙い点がある。
・米国英語が土台なので、大げさな表現については差し引いて聞く。
・ネイティブ言語でも、テレビカメラを向けられたり、人前でスピーチする際には、単語・表現選択が甘く、文法など間違えることが多い。その前提で聞く。

なぜ米国英語であることが重要かというと、米国で多用される表現「everyone」「no one」に関わってくるからです。

*なお、日英語の完璧バイリンガルのカツミタカヒロさんは、冒頭で紹介したnoteで以下のように書いていることも付け加えておきます。

「伊藤詩織さんの英語は、その発音・文章構成力、どれをとっても残念ながら「完璧」ではない。とくに口語調でインタビューに答える場合などはそうだし、どうしても荒さが目立ってくる。これは用語のチョイスや文法の荒さなどにも表れている。それでもコミュニケーションに支障はなく、むしろ優れているからこそ、各国に多くの理解者を得ているのだといえる。」
https://note.com/tkatsumi06j/n/nf728bf9ac6bf?magazine_key=mec52a50adf6e

(1) 伊藤氏の発言内容(BBC字幕は「性暴力や性的暴行」)に「痴漢」は入っていたのか、否か。

さて、彼女の英語の書きお越しをカツミさんがしてくれているので、詳細はそちらをご覧下さい(以上のリンク)。
ここでは、BBCが「性暴力や性的暴行」と訳し、以上の通り、ツイッターランドでそこだけが切り取られていた現実を踏まえ、彼女の "sexual violence, or sexual assault"に、彼女の意図として何が入っているのか、一般的な使用法、定義上はどうかなどを見ていきたいと思います。

その前に、大前提となる番組の中身を確認しておきたいと思います。
なぜなら、評価・批判の前に、原典にあたり、その前後を含めた全体を確認する…これは議論の基本ですが、SNS上のコミュニケーションで、あまりに疎かにされている点だと思います。これをしていれば、避けられた誤解が、伊藤さんが「レイプ・強姦」だけを問題としている、あるいは「性暴力・性的暴行=レイプ・強姦」との理解かと思います。

(ア)前後の文脈を確認すると
問題となっている第二動画は2分にすぎないので、やはりここは全体を確認しておきたいところですが、理解を深めるため、問題となっている発言の前後だけ紹介しておくので、後は各自でお願いします(https://www.bbc.co.uk/programmes/b0b8cfcj)。

日本の大学の授業で、「性的同意」について詩織さんと学生が、大学の先生の司会でやり取りしているシーンの最後に、先生が「詩織さんに授業に来ていただき性暴力に関する問題点の話をしていただけて、私たちは非常に幸運でした」とまとめ、伊藤さんが「楽しいトピックでもないし、特に日本の社会ってタブーなことだから、すごく聞いてても苦しいと思うし…」と話した上で、問題になった点の話に入っていきます。

問題部分は詳しく後で見ることにして、先に彼女の発言を受けて、学生たちがなんと話したのかを確認しておきましょう。完璧な聴き取りではありませんので、各自で確認下さい。

●女子学生: 私は中・高、女子高だったんですね。制服もセーラー服で可愛いし、もし誰かが被害を受けてても、自分が受けてても、女子高生だし仕方ないよねみたいな…

●男子学生: 修学旅行の時、女の友だちが目の前で痴漢されちゃって、それを男の自分でも見てて、「止めてください」っていうのを叫べなかったし、どうにもならないことなんじゃないかって、そういうことをほんとに考えて。

●伊藤氏: 被害を受けた時、サークルであっても、それを大学の中で、サークルの中で言えますか?

●女子学生: 自分を否定せずに話を聞いてくれる人を見つけるっていうことがすごく難しいなって思いました。


(*脱線しますが…このやり取りが重要なのは、BBC番組の全体のタイトルである「Japan's Secret Shame」の二つの側面のもう一方の側の話だからです。つまり、性暴力をする側やそれを擁護する構造の隠蔽と不処罰の問題としての「shame」の側面と、性暴力を受ける側がそれを恥ずかしさのあまり黙ってしまう側面の二つがあると、番組制作者は思っており、この場面は後者のエピソードとして紹介されているからです)

(イ)文章全体を見ると
さて、いよいよ問題となっている伊藤さんの発言箇所に入りましょう。以上の学生たちの発言の直前にきた発言です。彼女は次のように述べています。

"If you grow up in Japanese society, everyone have experienced sexual violence, or sexual assault, but not everyone consider it was." その上で、すぐ後に、"Especially when you start using public transportation as a high-school girl...."と続き、さらには"this man jerk off on me, today this man caught my skirt"と発言しています。

(*なお、英語の分からない人向けに>高校生が自分が受けた痴漢の話をしている場面で、前者は男性に射精された話、後者はスカートを掴まれた話です)

そして、学生たちの痴漢体験(目撃を含む)の話に繋がって行きます。つまり、切り取られた字幕付き動画だけでなく、ここの数秒のシーンを確認すれば、BBCによって「性暴力と性的暴行」と訳された中身が、主に電車などで起きる痴漢を念頭におかれていることが分かります。なので、「切り取り動画」だけに反応する問題が明らかになるかと思います。

(ウ)字幕を鵜呑みにしないなら
これは、翻訳でも(同時)通訳でも同様ですが、完璧なものがどこまで可能かというと、時間の制約があればあるほど、どんなプロでも容易ではないということを知っていてほしいと思います。特に番組の字幕は、文字制限がある上に、スピードが求められ、大変難しいです。私は、大学院生時代にこのバイトをNHKでしていましたが、一番ミスしてはいけないのに、プレッシャーの中でケアミスをしてしまうことがありました。なので、皆さんにもその前提で字幕が全てだと思わないことをお願いしたいと思います。

さて、色々この箇所には問題の字幕が多発するのですが、字幕として拡散してしまっている以下の表現に注目してみましょう。

●伊藤氏:「sexual violence, or sexual assault,」
●BBC字幕:「性暴力と性的暴行」
●カツミ訳:orなので、二つをまとめて「性的加害」とした(*後で紹介)

まず、カツミさんが指摘するように、「or」なので、そもそも「and」ではありません。でも、字幕訳者が「and」とする気持ちは分からなくはありません。その理由は、この番組が全体として、「レイプ(強姦)、痴漢、精液をかけられるなどの加害」などの、様々な性的加害行為を含んでいるため、取りこぼしのないようにとの配慮があったと思います。

(あるいは翻訳者に、性暴力についての最新の動向に基づく理解がなかったからかもしれません。通訳・翻訳において、やはり得意分野というのがあるのが当然で、最初からすべての分野の世界最先端の動向に通じている人などいないのです。やりながら調べて学んでいくというパターンが大半で、だからこそ、特に同時通訳の場合は、事前に相当資料を提供します。)

その上で、「sexual assault」の訳語ですが、ここではすぐ次の痴漢の話が前提となっている(特に…と続く)ので、本来、狭い意味の「性的暴行」と訳すべきではなく、痴漢を含む「性的加害」と訳しておくべきでした。そもそも、「or」が使われている時点で、かなり範囲の広い「性暴力/sexual violence」と同義語として「sexual assault」が並べられていることから、これは「性的暴行」ではなく「性的加害」の方を指していることが明らかです。

このように、翻訳者は、ある言語を別の言語に訳す時、単語を全体に位置づけながら、使い手の側に立ってああでもない、こうでもないと頭を悩ませるのですが、どんな単語や表現にも、複数の意味や訳語が存在しており、そこからどれを選ぶかは、専門知識と時間がなければとても難しい課題です。繰り返しになりますが、どんなプロも完璧ではないことを是非念頭に置いていただければ。

(2)「痴漢」を「sexual violence/assault」に加えることは妥当か。

以上の通り、この場面の話が「痴漢」をメインとしたものであり、彼女が述べた「sexual violence or sexual assault(性暴力あるいは性的加害)」に、これが含まれたことまで確認しました。

次に、英語世界でsexual violenceとsexual assaultに何が含まれているのかを見てみましょう。以上で紹介したカツミさんは、以下のようにnoteで書いています。

性的加害(sexual assault)という言葉には、レイプ、痴漢、セクハラ等あらゆる性暴力(sexual violence)が包含されている。レイプや痴漢がその中で「物理的な暴力」に分類されるとしたら、セクハラ等は「精神的な暴力」に当たると整理される。いずれも、一般に国際社会においては”sexual assault”と認識されている暴力であり、対する正規訳は「性的加害」であると理解している。これは、長年に及ぶ筆者の人権界での経験と、様々なメディアや専門家による文献などに直接接してきたことから得られる結論である。あらゆる性的加害は性暴力であり、性暴力は性的加害なのである

でも、一個人の説明だと批判もあると思うので、カツミさんの指摘の妥当性について、順番に見ていきましょう。

(ア)英語でも用語が進化/深化し続けている現状を踏まえる
今回、ツイッター上での色々な意見を見て思ったのは、英語であれ日本語であれ、「言葉・用語が生き物」であり、それが常に曖昧さや多義性、柔軟性をもちながら、広がったり狭まったり変化するものだという点が、忘れられがちという事実です。

用語の指す範囲も訳語も可変であるという大前提を、みなが持ち、google翻訳などで訳して終わりでなく、それへの疑義も含めて、留保する姿勢を持って頂ければなと思いました。

例えば、英語の世界であれ、「性的なこと」は長年タブーでした。大分変わったとはいえ、今も多かれ少なかれ、そうです。特に、女性の普遍的参政権が戦後であることを考えれば(百年の歴史もない)、女性にまつわる現象、とりわけタブー視されやすい性暴力をめぐる用語や概念、対応(法制度を含む)は、未だ発展途上の段階にあります。その結果、以下に見ていくように、"sexual violence", "sexual assault", "sexual abuse", "sexual harassment"など、異なる用語が同義語になったり、違っていたり、一方が他方の中に入れられたり、その逆があったりと、大変な混乱が見出せると思います。

西欧社会でも、女性や子ども、立場の弱い人達が直面する「性的な加害行為」に関して社会の中でオープンに議論されるのは、民主主義や社会主義が議論されるより、格段に歴史が浅いのです。なので、現実には、これらの表現を使いながら検証し、鍛え続けていくしかない。このような用語の定義確立は、現実社会との相互作用における社会・世界全体の課題だと、理解して頂ければ幸いです。今回、それが日本語であれ、英語であれ、何か固定的で不動のものとして捉える人が多いことに驚きました。自分も含めて、リアルタイムで、言葉が生まれる、鍛えられる現場に立ち会っているというエキサイティングな現実を、味わって頂ければ嬉しいです。

その意味で、今回この作業をするきっかけをもらったことに、大変感謝しています。

(イ)sexual violence:性暴力とは?
その理解の上でですが、sexual violenceとは何か?
依然として、これにレイプやそれに相当する身体的性的暴力だけを入れる人もいます。しかし、1960年代まで「violence/暴力」という概念そのものが、そのように捉えられていたので、60年経過したとはいえ、なかなか難しいのだなとは思います。ただ、今では日本でも、「暴力」に精神的な加害(不作為を含む)を入れることは、一般にも理解されるようになったと思います。たとえば、ニグレクトや仲間はずれなどのイジメも、日本内でも外でも「暴力」の一形態として理解されている通り、「暴力」の範囲には精神的加害が含まれるようになっています。

(*なお、「文化暴力」とか「構造的暴力」とか「間接暴力」とかの概念が、暴力論にはあるのですが、これもまたの機会に…)

同様に、言葉上のセクシャルハラスメントも「性暴力」として日本でも認識されるようになりつつあります。ただ、英語には、abuseという便利な言葉があるので、sexual abuseが使われる場合も多いです。abuseも訳しづらい言葉ですね。これは、また今度にします。

いずれにせよ、一応、米国の「全国反性犯罪団体(the nation's largest anti-sexual violence organization)」として自ら表明する「RAINN (Rape, Abuse & Incest National Network) 」の定義をみておきましょう(https://www.rainn.org/types-sexual-violence)。

"The term "sexual violence" is an all-encompassing, non-legal term that refers to crimes like sexual assault, rape, and sexual abuse. Many of these crimes are described below. "

「『性暴力』という用語は、「sexual assault、レイプ、性的虐待(sexual abuse)などの犯罪を指す、すべてを網羅した非法律用語です」とはじまり、サイト上の各セクションに行けば、この「sexual assault」の中に、合意なしの接触(触ること)、「sexual abuse」の中に精神的な性的加害が入っていることが分かります。

(ウ)狭義のsexual assault:性的暴行とは?

さて、今のところ、「性暴力」に痴漢が入っていないと主張する人はいないようなので(いたら教えて下さい。(ア)をもう少し充実させます)、「sexual assault」を詳しく、二つに分けてみてみたいと思います。エッセンスはすでに(1)で述べた通りです。ここでは、ニューヨーク警察の定義を手がかりとします。これを使う理由は、包括的にsexual assaultが定義・説明されているのと、伊藤さんがそこに住んでいたので、そこの用法を前提にしている可能性を考えてです(後者の理由はあまり重要ではありませんが)。


先に見た通り、sexual assaultには、狭義の「性的暴行」と広義の「性的加害」の二つが訳語として当てられてきました。まずは、前者についての、NY警察の説明です。レイプとの関連で説明されています。

https://www.met.police.uk/advice/advice-and-information/rsa/rape-and-sexual-assault/what-is-rape-and-sexual-assault/


"Rape is when a person intentionally penetrates another's vagina, anus or mouth with a penis, without the other person's consent. Assault by penetration is when a person penetrates another person's vagina or anus with any part of the body other than a penis, or by using an object, without the person's consent."


こういう話題は得意ではなく、このブログでは初めて「性暴力」をカテゴリに追加したので、躊躇するところですが、はっきり書いておかないとさらに誤解を生むので、一応説明しておきます。以上を要約すると、


●Rape:同意なしに意図的に他者の膣あるいは肛門や口にペニスを入れること。

●Sexual Assault:同意なしに他者の膣あるいは肛門に、ペニス以外の自分の身体の部分あるいは何らかの道具を入れること。


以上から、レイプではないものの深刻な性犯罪として、ニューヨーク警察は、狭義のsexual assaultをこのように位置づけています。なので、以上のケースに当てはまる場合は、「性的暴行」と訳していいでしょう。なお、ニューヨーク警察の定義がいずれの国でも当てはまるわけではありません。(ア)でも紹介した通り、英語でも日本語でも、国によって、もう少し範囲が広いケースをこれに含める場合があります。また、後者を「レイプ」に含める国や機関もあります。


しかし、ニューヨーク警察のsexual assaultの説明はそこで終りません。そこがミソなので、次にこれを取り上げます。


(エ)広義のsexual assault:性的加害

ニューヨーク警察の続きの文章を見てみましょう。重要な点なので全訳します。といってもかなり疲れてるので、後日訳を見直して修正するかもしれません。各自で原文をご確認の上、訳して頂ければ。問題があれば是非ご指摘下さい。


"The overall definition of sexual or indecent assault is an act of physical, psychological and emotional violation in the form of a sexual act, inflicted on someone without their consent. It can involve forcing or manipulating someone to witness or participate in any sexual acts.

Not all cases of sexual assault involve violence, cause physical injury or leave visible marks. Sexual assault can cause severe distress, emotional harm and injuries which can't be seen – all of which can take a long time to recover from. This is why we use the term 'assault', and treat reports just as seriously as those of violent, physical attacks."


sexual (性的)or indecent (わいせつな)assaultの(より)包括的な定義は、同意なしに他者に加えられた性的な行為の形で、身体的、心理的、精神的な侵害行為(an act of --- violation)である。それは、他者に対して、(以上のいずれでも)性的行為を目撃あるいは参加を強制したり、操作して押しつけることを含む。

sexual assaultのすべてのケースが、暴力、あるいは身体的傷害を引き起こすか、または目に見える傷跡を残すものとは限らない。sexual assaultは、目には見えないものの深刻な苦痛、感情的な被害、傷を引き起こす可能性があり、だからこそ回復するために長い時間がかかる。以上の理由から、我々は「assault」という言葉を使用し、これらについての通報を暴力的で身体的な攻撃と同じように真剣に扱うものとする


長いので、要点だけ抜き出します。


Sexual assaultの包括的な定義とは:

i) 同意なしでなされる性的な行為

ii) 身体的、心理的、精神的な侵害行為

iii) 性的行為を目撃・参加させられることを含む(強制・操作による)

iv)身体的障害や目に見える傷を残すと限らない

v) 目に見えない苦痛や感情面での被害、傷を引き起す可能性がある

vi) NY警察としては、これらすべてをassaultに含める

vii) NY警察として、これらのassaultに関する通報について、暴力的で身体的な攻撃と同じように真剣に扱う


(オ)結論

以上から、伊藤詩織さんが「sexual violence or sexual assault」と、言い換えたこと、また痴漢をこれに含んだこと、そしてかつみさんが二つをあわせて「性的加害」と訳したことには、何ら問題がなかったことが分かるかと思います。一方で、BBCの字幕に問題があったことが分かるかと思います。


(3)伊藤氏発言の「everyone」は「一人残らず全員」を意図したのか?


さて、日本語話者の一部の皆さんがとても気にしてらっしゃるこの点について次に見ましょう。時間がなくなってきたので駆け足で・・・。時間終了になったらごめんなさい。


(ア)米国口語で多用される「everyone」とは何か?

まずですが、米国英語話者は、「everyone」をとても多用します。しかし、この表現は文語(例えば、契約書、政府文書や学術論文)では、ほとんど使われません。どうしてでしょうか?


それは、これが厳密性に欠ける言葉だからです。もちろん、訳語は「みんな」などがあてられますが、日本語の「みんな」がそれだけでは確実に全員を指しているのか曖昧で、政府文書や学術論文でも避けられるのと同じ理由で、英語の政府文書や学術論文でも避けられる傾向にあります。


勿論、辞書には、"everyone"の訳語として「全員」が掲載されていますし、今回のように「誰もが」が使われるのは間違いではありません。でも、"everyone"を単体で「一人残らず」までの厳密な意味を含めて使うことは稀で、その場合には、前後に何か補足する場合が多いことは、頭においておいた方が良いでしょう。(その意味で、日本語の「全員」「誰もが」は必ずしも妥当ではない訳語となります。この点は後でもう一度ふりかえります。)


例えば、カツミさんがいうように、"literally"を"everyone"の前後につけて「全員」にする工夫もそうですし、声色や繰り返しで重みを持たせるケースがあります。例えば、怒ったお母さんが、3人の子どもたちに、「Everyone! Now!」みたいに叫ぶ場合です。この場合は、3人全員を指します。


なので、公文書や学術論文で「ひとり残らず全員」を意味する「全員」を英語に訳す時は、"all of" を使います。だから、"everyone"は極めて口語的に使われる言葉で、一番近い訳語は「みんな」だと感じていただければいいのかなと思います。


「みんなさー私のことおかしいって思ってるよね」・・・と同僚やクラスメートに相談したとします。その時、皆さんの脳裏に思い浮かぶのは、一人残らず全員でしょうか?まあ、同調圧力が高い・村八分の文化がある日本なので、そうかもしれないですが、大抵の場合「大体多数」を意味していませんか?


日本で「みんな」が口語表現であり、厳密な意味で必ずしも「全員」を指すわけでないように、英語でもそうであるとイメージしてもらえば、丁度いい感じかと思います。


なお、「Every one of 〜」という表現もあって、ややこしいですが、これは「〜は一つ残らず全員」という意味となり、文語でも使われます。なので、問題は、"every"にあるわけではありません。。でもこれは、"every 〜"が、その一個ずつを厳密に指すことが自明だからです。

その意味で、逆説的ではありますが、また面白いことに、"everyone/body"は、口語で使い倒されてきたからこそ、厳密さを失ったとも言えます。


(イ)伊藤氏発言内の"you"と"everyone"はどう受け止められるか

さて、そんな"everyone"なので、米国口語の通訳時には、訳さなくていい場合が多いです。曖昧な多数を対象としたり、一般論を示したい時に使われるので、そういうものとして訳します。

意味がサッパリ分からないかもしれません。ヒントは、伊藤さんの発言の以下の構文にあります。

"If you grow up in Japanese society, everyone have experienced sexual violence, or sexual assault, but not everyone consider it was." 


"you"で始まった構文内で、次に"everyone"が主語に置き換えられているのに気づいたでしょうか?


なぜ"You"が冒頭に来るのかを考えれば、彼女がここで一般論の話をしようとしていることが分かります。なので、すでに厳密さを欠いた話だと分かります。そして、"you"からはじめて、"everyone"となっている点で、その予測は補強されるわけです。


まあ、実際、あるいは本人の意図は分かりませんが、とにかく聞き手としては、「一般論」「厳密ではない」「多いんだね」というぐらいの受け止めとなります。つまり、差し引いて聞きます。


(ウ)本当に「一人残らず全員」と言いたい場合

さて、公文書や演説の読解・解釈・翻訳・通訳を仕事にして30年も生きていると、物事の理解において、「言われなかったこと」「行間」を含める形で全体を理解することの重要性を痛感します。このことは、大変重要なんですが、年々、研究者の間ですら、疎かにされてきているように思います。なので、いつかここら辺はまとめて書いてみたいと思っています。(今回はすでに長いので、この点はまた今度・・・)


その前提で、伊藤さんが、一部の日本語話者の人達が「一人残らず全員」と言いたければ、何と表現しただろうと考えることは、無駄ではないでしょう。勿論、色々な表現の仕方がありますが、最も簡単に表現するならば、


"All of those who grow up in Japan have experienced sexual violence, or sexual assault"

で済むので、あえて、以下のようにややこしい構文を使っているところに、一般論化・大体の・・・意味をもたせたかったことが分かります。なお、時制の問題や、あえてJapanese societyというかはここでは検討から外します。

"If you grow up in Japanese society, everyone have experienced sexual violence, or sexual assault,


なお、カツミさんが、everyoneならhasなのに、あえてhaveなのが間違いなのか、頭の中のイメージのせいなのかというポイントはとても面白いので彼のnoteをご確認下さい。本人しか分からないですが、私もカツミ説かなと思っています。いつか確認できたら面白い。


さて、ここであえて「結論」は書きません。代わりに、末尾にカツミさんのnoteの記述を抜粋・転載させて頂ければと思います。とても面白いので、将来英語を使って仕事をされる方などには、是非念頭においていただければ。



(5)英語の番組視聴者に(2)と(3)の点はどう受け止められるのか?


親戚が登場してしまいました…。下でとりあえずワイン飲んでてもらっています。なので、ここは急ぎ足で書いておきます。


(ア)多様性が前提の英語世界における非ネイティブのインタビュー

英語話者といっても、英語を母語としたり、公用語として日々使っている人、外国人だが仕事で使っている人、日常生活だけで使っている人など、様々です。そして、英語は多様です。ここで取り上げた"everyone"ですが、英国の上流階級は多用しません。


でもだからダメだという話になるのではなく、英国が世界の覇権国となり、英語をいくつもの大陸で時に強制、時に普及させ、近年は「英語=グローバル言語化」していくプロセスで、「さまざまな英語のすべてが英語である」という認識が持たれるようになりました。


なので、英国文学最高賞であるブッカー賞ですが、もはや英国出身者の英国英語の文学を書く人ばかりが受賞するのではなく、インドやナイジェリアやその他の「多様な英語」が飛び交う文学が賞を取ることが多くなっています。

https://www.yomuhon.com/booker-prize/


また、英国では、階級や地域で話される英語がかなり違うので、これが就職などに影響するとの問題が生じてきました。そのため、王室からオックスブリッジで使われていた「クイーンズイングリッシュ」は、いまはよりフラットな「RP(Received Pronunciation)」と呼ばれる英語が使われます。BBCやウィリアム王子たちの英語はこれです。


いずれにせよ、英語もまた変化しつつあり、多様化した英語が受け入れられており、「グローバル言語」になったメリットを享受している英語話者は、多様で、時に元々の英国の公用英語の観点からは「正確ではない」英語に対しても、寛容性が求められるようになっているという点を、多くの日本の人に知っていただければと思います。国連の会議に行けば、これははっきり分かることですが、かつて『月刊英語教育』という英語の先生たちの月刊誌に連載したので(「世界の英語・英語の世界」)、また改めて紹介します。


以上の前提で、伊藤さんの非ネイティブの米国口語の発言を、英語話者が聞いていると想像できるか否かは重要です。


(ウ)伊藤氏はこの番組で「誰」として発言しているのか(ジャーナリストか、取材対象か?)

次に重要になってくるのが、伊藤さんをこの番組内でどう位置づけるべきか、です。

彼女は確かにジャーナリストです。性犯罪についての番組も作っているし、記事も配信しています。しかし、この番組では、取材「対象」として位置づけられている点を、一部の日本の皆さん(!)が見逃している点に驚いています。


(*いま書いてて、「一部の日本の皆さん」という矛盾した表現が、日本語上成立している素晴らしさに気づきました。ここでの「皆さん」は「方々」程度のものですね。<=脱線)


なぜそれが大きなことなのかというと、発言や映像の「編集権」と「完成度」に関わってくるからです。

もし、伊藤さんがジャーナリストとして番組を作るのであれば、いずれの発言も字幕も、それが伝わるメッセージの正確度も、彼女が編集権を持っている以上、重い責任を負います。しかし、この番組では、インタビューを受けて、勝手に編集され、勝手に字幕をつけられる立場にあります。つまり、彼女はジャーナリストとしての経験を話していたとしても、この番組内では、「一取材対象」にすぎないのです。


しかも、ニュース番組の解説者という位置づけでもありません。「取材対象の当事者」としての発言となるわけで、普通にこの番組を観れば、そのように受け止めて観ると思います。他方、彼女の名前で編集権をもって発信する記事や番組については、また別の扱いが必要になります。


(ウ)「(2)sexual assaultに痴漢が入るか?」の論点の受け止め

さて、もう説明は不要と思いますが、念のため。ここまで見たように、英語世界でも、用語や定義、範疇は日々変化していっており、機関や主体によって時に大きく、時に微妙に異なっていることが分かったと思います。ニューヨーク警察が、狭義(性的暴行)と広義(性的加害)のsexual assaultの両方を捜査の対象とし、後者に心理的・精神的な加害を含めるようになったように、世界的にこの方向で変化が起きています。


しかし、だからといってニューヨークに暮らす「全員」が(笑)、ニューヨーク警察の定義を知っているわけではないように、地域や国や人種やジェンダー、宗教、年齢、学歴、社会的経験などによって、どの段階にいるのか、各用語をどの定義で受け止めるかは、様々です。やはり、性暴力の被害にあったことのある人、あうかもしれない人と、そうでない人達とでは、ここら辺の理解は圧倒的に異なります。


したがって、言葉だけ眺めても全体の理解が得られないので、話が振り出しに戻りますが、番組全体、あるいは問題となった動画全体、最悪その文章が使われている前後の文脈まで含めて、理解される必要があります。たとえ、ネイティブ英語話者であろうとも。しかし、「皆」がそうるるわけではないのが現実でしょう。

そもそも論ですが、前にも書きましたが、性暴力というテーマは、身近なものであるためにそれぞれの感情を喚起しがちなテーマであると同時に、社会で議論されて日が浅いために、同じものを観ても、性暴力のサバイバーに理解がある人かどうかで反応が著しく異なることが多いです。

とても分かりやすい例として、「セクハラ事案」への反応があげられます。日本でも、「お前未だ嫁に行かないのか?」「お前いつになったら子どもを産むんだ」ということを執拗にいって問題化した公務員や会社の上司の話が出ていたと思いますが、70-80歳以上の男性か女性、60代男性か女性、50代男性か女性、30-40代男性か女性、20代男性か女性で、受け止めは相当違うと思います。年齢と性別、そしてこれに個々人のこれまでの人生経験を含めれば、反応がすごく別れるのが、「性的加害」の議論の特徴です。

だから、そもそも対話するのが難しいテーマなので、今回のような出来事は、ある種必然なのかもしれません。でもだからこそ、勇気をもって、議論をひらいていかなければならないのだと思います。たとえ、私がしたように下手なものであっても。ちょっと脇道に逸れました。

(エ)「(3)everyoneは一人残らず全員か?」の論点の受け止め
これももう不要だと思いますが、英語話者が、「everyoneっていったじゃないか!」と詰め寄るのは、子ども同士の喧嘩とか夫婦喧嘩のレベルかと思います。日本語話者が、「みんなっていったのに、一人残らず全員じゃないっていうのか!」というのと大体同じこととイメージしていただければ。もちろん、疑念を避けるために別の表現を使ってもよかったと思いますが。

さて、そろそろマズいので、これにて失礼。残りの論点(「ヘイト」について)は、明日できればやりますが、なにせ学会報告目前なので、すみません確約はできません。詠み直す余裕もないので、誤字脱字、あまり適切でない表現があれば、またなおします。すみません!

【徒然】伊藤詩織さんを取材したBBC番組後の一連のやり取りを踏まえた論点&私の考え(前半)_a0133563_03232104.jpeg



【付録:カツミさんの"everyone"をめぐる検討】

【翻訳検証】BBC Two『Japan's Secret Shame』(2018)の番組で伊藤詩織さんが語ったことが問題視されている点 #JapansSecretShame

https://note.com/tkatsumi06j/n/nf728bf9ac6bf?magazine_key=mec52a50adf6e


"Everyone"の訳について、第一段階では便宜上「誰もが」にしているが、これは実は無くても困らない程度の表現である。日本語話者や英語に精通しない者は逐語的に「Everyone=全員」と思いたいかもしれないが、一般には何においても全員が同じ考えであるという確証は得ようがないため、一般に口語的に"everyone"が厳密に「全員」を意味することは、ほぼない。


「余談~続"Everyone"論~

"Everyone"の対語に"No one"がありますね。「誰もが」に対する「誰も」という表現。これも、英語で厳密に「誰も」を意味することは稀です。映画などでよくある"No one will believe you"(誰がおまえのことなど信じるか)みたいな表現がありますが、これも「厳密ゼロ」という意味では有りません。逆説的に、"Everyone"も同じです。

例えば私が通訳した表現に、こういのものがありました。

"Everyone in the department would agree with me"
「うちの課の者なら誰もが私に同調するだろう」

この時、私は敢えて「全員」とはしませんでした。文意に”多数派であること”が含まれているからです。しかし、「多数」ではあっても「全員」であるかどうかは話者にだってわかりませんし、受け止めた側にも確認しようがありません。厳密な話ではないのです。だからここでは「全員」とは表現せずに「誰もが」と訳出し、あとは受け手側の理解に任せるのです。

翻訳でも通訳でも、その位の思考の余地は残すものです。

これは最早対話力の問題で、相手が"everyone"あるいは"no one"と言ったからと言ってそれを一言一句真に受けるというのは流石に大人気ない話です。だから映画などでは、"NOT EVERYONE(全員じゃねえよ)"みたいな、子どもっぽい返しがよく使われるわけです。

社会人の方はそんな稚拙な理解で英語を使ってないことを願うばかりです。

では逆に、厳密に"No one"あるいは"everyone"の時には、すなわち「全員」あるいは「誰も~でない」を英語でどう表現するのか。これもよく映画やドラマなどで聞くと思いますが"literally"を前に、あるいは後に付けます。


Literallyという言葉はリテラル(逐語的な)リテラシー(通常は識字率、最近は教養や様々な情報に基づく状況判断力を意味します)等の言葉でも使われるように「文字通り」という意味です。"Literally"の言葉で補足することで、普段口語的には厳密ではない"Everyone"あるいは"No one"という言葉が厳密の意味を持つようになるのです。逆説的には、それだけ意味のない、といったら語弊がありますが、レトリカル(修辞的)な表現なんです。」


最後に、これまでの説明はすべて口語的な場合、口述の場合に限られた場合に適用されるものです。契約書、法文書、社内コレポン文書など、公文書や正式な文書においては、一度"everyone"だとか"no one"だとか使ったら厳密性を求められます。なので誤解のリスクを回避するため使わないのがビジネスの定石です。社内コレポンでは、気心が知れた間柄のみ使用が許容されるでしょう。「全員」という確定的な表現は、日常では避けるのが定石です。




by africa_class | 2020-10-18 03:27 | 【新設】性暴力について
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