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【徒然】伊藤詩織さんを取材したBBC番組後の一連のやり取りを踏まえた論点&私の考え(後半)

さて、お待たせしました。学会が終ったものの、論文から報告準備までの締切プッシュにより、心身ともに疲労が溜まってしまい、なかなかブログまで行き着きませんでした。(反動で、架空の「物語」の方は10巻後半まで進めることができました)。でも論文で言いたかったことがよりクリアになって、本当にありがたかったです。昨日ようやくコメントや質問への回答が書け送信できたので(ブログ掲載はおいおい…)、この続きを書こうと思います。

なんのこと?・・・な皆さんはまずこちらの投稿からご一読頂ければ。例のごとく長いですが、ご意見をお寄せの際は全部お読みの上でお願いします。

【徒然】伊藤詩織さんを取材したBBC番組後の一連のやり取りを踏まえた論文&私の考え(前半)
https://afriqclass.exblog.jp/240634922/

前半では、(5)まで書きました。
その後、色々な追加のご意見や質問もきたのですが、それは「番外編」にまわし、まずは今年6月時点の論点に関する私の考え(当時と現在)を示しておきます。また、(8)は「番外編」の中身と関わるので、そちらで論じることにします。

(1)伊藤氏の発言内容(sexual violence/assault)に「痴漢」は入っていたのか、否か?
(2)入っていたとすれば、「痴漢」を「sexual violence/assault」に加えることは妥当か?
(3)伊藤氏発言の「everyone」は「一人残らず全員」を意図したのか?
(4)そもそも伊藤氏の英語は番組視聴者にはどう受け止められるのか?
(5)英語の番組視聴者に、(2)と(3)の点はどう受け止められるのか?
(6)そもそも「ヘイト」とは何か?
(7)この番組発言を「日本人女性ヘイト」と言えるのか?
(8)この番組によって海外の日本人女性は被害を受けるのか?

「後半」では、「ヘイト」について取り上げるのですが、そもそも日本における「ヘイト」の現在のSNS上での用法は極めて特異で、まずはそこから紐解いていかないと、意味のある議論に辿り着けないので、(6)が大変長くなりました。

例えば、日本語での「ヘイト」という用語ですが、ゲーム用語にもなっていて、大変驚きました。もしかして英語世界のゲームでもそうなのかもしれませんが、「ヘイト」が外来語であることを考えれば、日本社会へのこの影響は大きいと思われ、これを機会に定義を丁寧に考えるのは必要だと思います。「外来語の氾濫」は混乱の原因の一つとも考えられます。日本語で置き換えられる言葉はやはり積極的に日本語で表現したいですね(<=自戒を込めて)。

これを機会に、「ヘイト犯罪」「ヘイトスピーチ」への理解が、日本でも広がることを切に願っています。また、日本の社会学界隈には膨大な数の研究者や院生がいるにもかかわらず、日本語での研究が極めて少ないのにも驚きました。ぜひ、若い人に国際比較などを含め、SNSの言説分析、それに基づくSNS上での議論などを、お願いできればと思います。


(6)そもそも「ヘイト」とは何か?

(ア)日本語での用法や定義の問題について

あえて、日本語の検索エンジンで上位にきて、若い人が見ることが多いであろう「ニコニコ大百科」を参照しました。そこでは以下のように書かれています。
https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%98%E3%82%A4%E3%83%88

  1. 憎しみ、憎悪すること。英語のHateから。明確に忌み嫌う意味合いが強い。
  2. 1に基づいて、それを目的とした何らかの行動について「ヘイト○○」と呼ばれる。(後略)
  3. オンラインゲーム…等で、敵のプレイヤーに対する敵対心を設定している項。(後略)

ここで問題は、1. で「Hate」とわざわざ大文字で書いてある点です。動詞や名詞の「hate」の基本的な意味は、1.に示されているものと同様に、日本語の「憎しみ、憎悪すること」「明確に忌み嫌う意味が強い」でほぼ置換え可能です。しかし、2.と連動させて、「Hate」と書くことで、混乱を生み出しています。

なぜなら、政治的・社会的な意味での"Hate"や「ヘイト」は、単なる増悪だけを意味しないからです。なので、本来は、1.では通常の訳語だけを説明し、2.では特定のシステマティックな/政治的な表現であることを明記すべきです。また、「それを目的とした何らかの行動」では、英語の本来の意味が抜け落ち、混乱が更に深まります。(次に触れます)

つまり、個人の憎悪感情や、一般的に「憎しみ」「忌み嫌う」とされるものは、日本語のままで使うべきであり、3.は安易に「ヘイト」という一見分かるようで分からない外来語が氾濫してしまうので、より混乱を増長する可能性がある・・・と言えるかと思います。

もちろん、表現は自由ですし、言葉も進化するので、それが絶対ダメということではなくて、混乱の原因については理解しておく必要があるのではないか、というのが私の最初の論点です。

(イ)英語の"hate"の定義について

その上で、英語のhate(名詞)の定義をみてみましょう。以上の1. の「憎悪」とa.が、「忌み嫌う」とb.が対応しているのが分かるかと思います。

以下は、英語検索の最初に出てくる、19世紀初頭から英語の定義を扱ってきたMarriam-Websterの定義です。
https://www.merriam-webster.com/dictionary/hate

Hate:
a: intense hostility and aversion usually deriving from fear, anger, or sense of injury
b : extreme dislike or disgust : antipathy, loathing had a great hate of hard work
c : a systematic and especially politically exploited expression of hatred
//a crime motivated by bigotry and hate

- often used before another noun
// hate mail
//an organization tracking hate groups

— see also hate crime

その上で、今回重要なc.を、日本語にしてみましょう。

(仮訳)「c: システマティック(体系的/組織的)、特に政治的に利用される憎悪の表現
//偏見と憎しみに動機づけられた犯罪


- 多くの場合、他の名詞の前に使われる
// ヘイトメール
//ヘイトグループを追跡する組織


(*訳者注:英語のexpressionは行動も含みます。なので、本来は「言動」とした方がいいのですが、一応こうしておきます。)

<=以上から分かるように、「ニコニコ」の2.にあたる解釈は、英語においては「システマティック」であり「特に政治的に利用される憎悪」の言動となっているという点に注目して下さい。そして、その後にアクションの中身となる「メール」「集団」「犯罪」などが続くこともわかります。これは、hateがそもそも感情を指し示す単語であり、それ単体ではそれに基づく行動や主体が不明瞭になるのを割けるためです。

日本語や一部の言語と異なり、英語は明瞭さを美徳とし、不明瞭さを極めて嫌う言語です。

そして、わざわざ「hate crimeを参照せよ」とあり、リンクがあるのが重要な点です。こういう時は、該当する単語の用法がかなり明確に定義されている可能性があるということで、必ず参照が必要になります。

(最近、こういう作業を飛ばす人が、一般や学生だけでなく、研究者にもメディアにもいます。言葉を扱って発信する人には、基本動作の一つとしていきましょう。(私も自戒を込めて・・・)

(ウ)"hate/ヘイト"定義に記された「ヘイトクライム(犯罪)を見よ」

さて、リンク先で以下のように記述されています。
https://www.merriam-webster.com/dictionary/hate%20crime

Definition of hate crime

: any of various crimes (such as assault or defacement of property) when motivated by hostility to the victim as a member of a group (such as one based on color, creed, gender, or sexual orientation)

<日本語仮訳>
ヘイトクライム(ヘイト犯罪)の定義:
(人種、宗教、ジェンダー、性的指向などに基づく)集団の成員としての被害者に対する、敵意を動機とする各種犯罪(攻撃あるいは器物損壊等)のすべて


<=ここで、「人種、宗教、ジェンダー、性的指向」「集団の成員としての被害者」「敵意を動機」などの言葉が出てきます。

(エ)英国検察の「ヘイト犯罪&ヘイト事件」の説明

前回は伊藤さんが住んでいたニューヨーク警察を参照しましたが、今度はBBCが作られている英国政府の定義を参照してみましょう。英語に関心のない人は日本語仮訳に飛んで下さい。

Hate crime

The term 'hate crime' can be used to describe a range of criminal behaviour where the perpetrator is motivated by hostility or demonstrates hostility towards the victim's disability, race, religion, sexual orientation or transgender identity.These aspects of a person's identity are known as 'protected characteristics'. A hate crime can include verbal abuse, intimidation, threats, harassment, assault and bullying, as well as damage to property. The perpetrator can also be a friend, carer or acquaintance who exploits their relationship with the victim for financial gain or some other criminal purpose.


日本語仮訳)

「ヘイトクライム(ヘイト犯罪)」という用語は、加害者が、被害者の障害、人種、宗教、性的指向、トランスジェンダーのアイデンティティーに対して敵意を動機とする/敵意を示したりするさまざまな犯罪行為を説明するために使用される。ある人のアイデンティティのこれらの側面は「保護された特性」として知られている。ヘイトクライムには、言葉による虐待(abuse)、弾圧、脅迫、嫌がらせ(ハラスメント)、攻撃、いじめ、そして器物損壊などが含まれる。また、加害者は、友人、介護者、そして金銭的利益やその他の犯罪目的のために被害者との関係を利用する知人の場合もある。


<=「〜アイデンティティーに対して敵意を動機とする」という点に注目下さい。


(オ)EUにおける「hate speech/ヘイトスピーチ」とその規制の法制度化

さて、今回は伊藤さんが話した内容が「ヘイト」だとの指摘なので、後ろに付ける言葉として何かを想定しないといけません(以上の英語の定義参照)。「スピーチ」以外は厳しそうです。なので、次に「ヘイトスピーチ」について次に見ましょう。


ただし、「ヘイトスピーチ」は表現の自由との兼ね合いから、法制度化される場合は、かなり詳しく対象が狭められています。それは、各国で議論においても、内容においても相違が大きいのですが、最もこれが進んでいるとされるヨーロッパ連合(EU)を事例にまずはみてみましょう。ただし、前にも書きましたが、いずれの言葉も表現も概念も法制度も、使われながら鍛えられ、変化しています。


「へイトスピーチ」に関する、EU諸国間のコンセンサス形成に元になったのが、1993年のウィーン宣言です。
https://www.cvce.eu/en/obj/declaration_of_the_council_of_europe_s_first_summit_vienna_9_october_1993-en-d7c530b5-a7c9-43f9-95af-c28b3c8b50d3.html

- Condemn in the strongest possible terms racism in all its forms, xenophobia, antisemitism and intolerance and all forms of religious discrimination;
- Encourage member States to continue efforts already undertaken to eliminate these phenomena, and commit ourselves to strengthening national laws and international instruments and taking appropriate measures at national and European level;
- Undertake to combat all ideologies, policies and practices constituting an incitement to racial hatred,violence and discrimination, as well as any action or language likely to strengthen fears and tensions between groups from different racial, ethnic, national, religious or social backgrounds;
-Launch an urgent appeal to European peoples, groups and citizens, and young people in particular, that they resolutely engage in combating all forms of intolerance and that they actively participate in the construction of a European society based on common values, characterised by democracy, tolerance and solidarity.

- あらゆる形態のレイシズム(人種差別主義)、ゼノフォビア(外国人恐怖症)、反ユダヤ主義及び不寛容、並びにあらゆる形態の宗教的差別を、強く非難する。
- 加盟国に対し、これらの現象を排除するために既に行われている努力を継続することを奨励し、国内法および国際的な手段を強化し、国内および欧州レベルで適切な措置を講じることを約束する。
- 人種的憎悪、暴力、差別の扇動を構成するすべてのイデオロギー、政策、慣行、および、異なる人種、民族、国家、宗教、または社会的背景を持つグループ間の恐怖と緊張を強化する可能性のある言動に対抗するために取り組む。
-欧州の人々、グループ、市民、特に若者に対して、あらゆる形態の不寛容との闘いに断固として取り組み、民主主義、寛容、連帯を特徴とする共通の価値観に基づく欧州社会の構築に積極的に参加するよう、緊急アピールを開始する。

これをベースに、EU加盟国やEU人権裁判所(ECtHR)は、これまで活動してきました。ここで重要な点は、EU人権裁判所において「ヘイトスピーチ」として認定されるには、以下のような要件があるということです。

In both cases the Court also reiterated that to count as hate speech it is not sufficient that the words merely offend, shock or disturb; they must be capable of inciting hatred or violence.

「両方の事例では、その言葉が単に不快感を与えたり、衝撃を与えたり、妨害したりするだけでは不十分であり、憎悪や暴力を扇動することができるものでなければならないと繰り返しています」

(Alexander Brown, "What is Hate Speech?", Law and Philosophy (2017) 36.)

ここで二つのことが分かります。

(1)「ヘイトスピーチ」の法制度化において最も先駆的役割を果たしてきたEUにおいて、この概念が、社会に蔓延る「差別」をくい止めるために生まれたものであった点。

(2)ただし、それを法制度上で取り締まるには、「不快感」では不十分で、「憎悪や暴力を煽動を可能とするものでなければならない」こと。


<=つまり、差別に根ざした+憎悪・暴力煽動=ヘイトスピーチとされています。


その後、EU諸国に留まらず、国連加盟国内での「ヘイトスピーチ」に関する法制度化が促されていきます。日本もこのような国際社会内での変化を受けて、「ヘイトスピーチ解消法」が制定されます。


(カ)日本での「ヘイトスピーチ解消法」成立から4年

では、ここでの「ヘイトスピーチ」の対象と範囲はどのように規定されているでしょうか?

法務省のサイトには、この法律が、半数近くの人に知られていないことを驚きと嘆きとともに示しています。その上で、「ヘイトスピーチ」の具体的な事例として以下をあげています。


http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html


特定の国の出身者であること又はその子孫であることのみを理由に, 日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの 一方的な内容の言動が,一般に「ヘイトスピーチ」と呼ばれています。
 例えば,
 (1)特定の民族や国籍の人々を,合理的な理由なく,一律に排除・排斥することをあおり立てるもの  
 (「○○人は出て行け」,「祖国へ帰れ」など)
 (2)特定の民族や国籍に属する人々に対して危害を加えるとするもの   
 (「○○人は殺せ」「○○人は海に投げ込め」など)
 (3)特定の国や地域の出身である人を,著しく見下すような内容のもの   
 (特定の国の出身者を,差別的な意味合いで昆虫や動物に例えるものなど)
     


<=この「ヘイトスピーチ解消法」の正式名称は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成28年法律第68号)」です。ここから分かるように、日本の法律における「ヘイトスピーチ」は、現段階では、「特定の国の出身者、その子孫」=「日本外の出身者」への「差別的言動」のみを対象としています。


具体的に法律の中身を見ましょう。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=428AC1000000068


第一章 総則
(目的)第一条 この法律は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消が喫緊の課題であることに鑑み、その解消に向けた取組について、基本理念を定め、及び国等の責務を明らかにするとともに、基本的施策を定め、これを推進することを目的とする。
(定義)第二条 この法律において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するものに対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。

 

<=以上の通り、人種・宗教・障害・性的指向に基づく差別を含むヨーロッパの「ヘイトスピーチ」関連法に比べ、「日本外出身者」への加害のみを対象とする日本の法律範囲の狭さが分かるかと思います。また、加害行為もかなり限定されています。


(a) 本邦の域外にある国/地域の出身であることを理由として、

(b) 「その生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨の告知」または「著しい侮辱」

(c) 地域社会からの排除を煽動する不当な差別的言動


という3段階要件になっていることが分かります。なので、世界的にみてもこの法律の適応範囲は極めて狭く、逆にいうとかなり違法要件がかなり明快な法律となっています。

                                    

(キ)日本での「ヘイトスピーチ解消法」施行の背景

このヘイトスピーチ法が制定された背景に、国連における度重なる日本政府への勧告がありました。これは、法務省のサイトでも以下のリンクとともに紹介されているので、是非各自でご確認下さい(日本語です)。


平成26年7月の国連自由権規約委員会による日本政府報告審査における最終見解【PDF】

※及び同年8月の国連人種差別撤廃委員会による同審査における最終見解【PDF】※


ここには外国出身者の差別だけでなく、その他の人種差別の問題が繰り返し指摘されてきたことも書かれています。が、与野党が合意して施行できたのが、外国出身者に関する差別だけだったということになります。


なお、日本は、国連の加盟国として、国際社会の一員として、国連加盟国の相互審査を受ける立場にあるとともに、相互審査をする立場でもあります。また、人権委員会には長らく参加してきています。その上で、これらの勧告を重く受け止め、与野党が「ヘイトスピーチ法」を制定したことは、大変賞賛されることだと思います。


国連加盟国は、それが拘束力あるなしにかかわらず(国連宣言であれ)、国際法となった規範やルールを尊重する義務があります。(それができない場合は、加盟国をやめなければなりません。)日本のヘイトスピーチ法は国際基準にあわせると不十分な点も多々ありますが、日本が尊重する必要のある(場合によって拘束力のある)国際法・規範にあわせ、相互審査に基づき、国内法との連結を進めたという点で、画期的な第一歩ではありました。


また、地方自治体における施策も第4条に含まれており、日本政府だけでなく地方自治体もこの法制度化に義務を国際的に負っていますが、これが遅々として進まない点も問題としてあげられます。(*なお、国際法の国内法制度化における地方自治体への義務付加は、この法律に限らず、一般的な法整備上の条項です)


(ク)ツイッター社の「ヘイト行為ポリシー」のアップデート(2020)

さて、今回のやりとりの舞台になったのが、ツイッター上でしたので、次にツイッター社のポリシーを見てみましょう。詳しくは、以下のサイトにいってそれぞれの箇所をクリック下さい。


ただこのポリシー改定と利用者のフィードバックを受けて重視した点として、以下が示されていることは大変重要です。


■ヘイト行為に対するTwitterポリシーをアップデート(2020年3月6日)

https://help.twitter.com/ja/rules-and-policies/hateful-conduct-policy

  • 要件の明確化:あらゆる言語で、ポリシーをより詳細に規定しつつ、違反事例をより多く提示し、いつ、どのように文脈を考慮するのかについての説明を加えることで、Twitterのポリシーは改善される…・より詳細な説明を加えてルールの明確化を図りました。
  • 対象を絞り込むこと:…「特定可能なグループ」という表現は対象が広すぎるので、人間性を否定する言葉と政治的グループやヘイトグループ、その他社会的に主流派ではないグループを関連づけるべきだという意見が寄せられました。多くの人が、「ヘイトグループについては、いつ、いかなる方法であっても恐れることなく非難できる」ことを求めていました。…
  • 一貫した措置をとること:…公正さや一貫性をもって執行措置を実施するTwitterの能力に対する懸念が提起されました。…

以上から、この改定にあたっては、利用者にとって「要件の明確化」「いつ、どのように文脈を考慮」し、「対象を絞り込んで」規制するのか等の「ルールの明確化」が重視された事が分かります。


<=つまり、「文脈」と「対象」が重要になっている点に注目下さい。



(ケ)ツイッター社の「ヘイト行為ポリシー」の詳細

包括的な「ヘイトスピーチ/行為予防」の法制度化が遅れる中、ツイッターに限らず、欧米並びに世界的に著名な大学では、キャンパス・ヘイトスピーチ規定(Campus Hate Speech Code)が導入されています。日本の大学は大変遅れており、教員や学生の自主的な窓口が設置されている程度です。

これについて、また別の機会に取り上げたいと思いますが、ここでは、どのようなことが具体的にツイッター社に「ヘイト行為」とされているのか検討することで、次に繋がる手がかりを得たいと思います。

なぜなら、この件で、議論している人達は全員ツイッター上にいるため、この規定に合意した上で意見のやり取りをしていることになっているからです。これに合意しない場合は、ツイッターを止めればいいだけの話で、今現在使っている人達はみなこれに同意して、使っていることになるからです。

なので、この議論を前に進めるための最大の共通土台は、このポリシーとなります。
https://help.twitter.com/ja/rules-and-policies/hateful-conduct-policy

■ヘイト行為:
人種、民族、出身地、社会的地位、性的指向、性別、性同一性、信仰している宗教、年齢、障碍、深刻な疾患を理由にして他者への暴力を助長したり、脅迫または嫌がらせを行ったりする投稿を禁じます。詳細はこちらをご覧ください。

以上の「こちら」の詳細を開くと、以下の文章が出てきます。引用長いですが、以上の理由から一部抜粋します。原文は以上リンクをご確認下さい。

■「ヘイト行為」:暴言や脅迫、差別的言動に対するTwitterのポリシー

暴言や脅迫、差別的言動:

人種、民族、出身地、社会的地位、性的指向、性別、性同一性、信仰している宗教、年齢、障碍、深刻な疾患を理由とした他者への暴力行為、直接的な攻撃行為、脅迫行為を助長する投稿を禁じますまた、このような属性を理由とした他者への攻撃を扇動することを主な目的として、アカウントを利用することも禁じます。(後略)


基本原則

(前略)ある特定のグループがオンライン上で特に攻撃的な行為の標的とされています。それには、女性、有色人種、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア、インターセックス、アセクシャルという、社会の非主流派であり歴史的に少数派のコミュニティが含まれます。複数の少数グループに所属する人々にとって、攻撃的な行為は日常的で、耐え難いものであり、標的となる人は大きな影響を受けます。

Twitterは、嫌悪、偏見、不寛容に基づく攻撃的な行為のうち、とりわけ歴史的に非主流派の人々を沈黙させようとする攻撃に対する取り組みを進めています。このため、Twitterは、一部の国や地域で規定されている保護対象のカテゴリーに属する個人への攻撃的な行為を禁じています。(後略)


個人または特定の集団が深刻な損害を被ることを願う、希望する、または要求する
Twitterは、一部の国や地域で規定されている保護対象のカテゴリーの人々やそこに属する個人に対して、
死亡、深刻かつ持続的な身体的危害、重篤な疾患を願う、希望する、促進する、またはそのような願望を表す内容を禁止しています。(
後略)


法的または社会的に守られるべき特定のカテゴリーに属する人々に関する脅迫
Twitterでは、法的または社会的に守られるべき特定のカテゴリーに属する人々について、
恐怖心を扇動したり、不利益となる偏見を拡散したりすることを意図したコンテンツを、個人やグループを対象に配信することを禁止しています。(後略)


中傷、悪口、人種や性差別的発言など、他者の尊厳を低下させる内容を繰り返す行為や、それらによって相手の品位を損なうような投稿
Twitterは、個人を、繰り返し中傷、差別し、一部の国や地域で規定されている保護対象のカテゴリーの人々を非人間的に扱い、貶め、彼らに対する否定的または有害な偏見を助長する目的を持ったコンテンツの標的にすることを禁止していま
す。 (後略)


<=以上から、ツイッター社が、次の三点を「ヘイト行為」の認定に重視していることが分かります。


①「ヘイト行為」の対象:人種、民族、出身地、社会的地位、性的指向、性別、性同一性、宗教、年齢、障碍、疾病

②「ヘイト行為」から守られるべき特定グループ:社会的な非主流派、少数コミュニティなどの「少数グループ」、一部の国・地域の保護対象カテゴリーに属する人びと、法的・社会的に守られるべき特定カテゴリーの人びと

③「ヘイト行為」の中身:「他者への暴力行為、直接攻撃、脅迫などの助長」、「属性を理由とした他者への攻撃煽動を主な目的とするアカウントの利用」


そして、ツイッターの利用者は、これを理解した上で、ツイッター上にアカウントを設け、使っていることになります。



(7)この番組発言を「日本人女性ヘイト」と言えるのか?

(ア)ツイッター上での指摘をふりかえる
以上に基づき、伊藤詩織さんの発言が、「日本人女性ヘイト」と呼べるのかを検討していきますが、まずは最初のツイを再度確認しておきましょう。(赤字は筆者によるものです)

●6月11日 22時53分(Aさん)
日本のネガキャンはやめて欲しい。そりゃ痴漢とかはいるけど、『誰でも性暴力や性的暴行を経験しているんです』はないでしょう。伊藤詩織さんによる日本人女性ヘイト発言に抗議します。

この方は、元々、男性名称の匿名アカウント(仮にBさんとしておきます)からの以下のツイをRTする形で発信されていました。

●6月11日 22時30分(Bさん)
【拡散希望】次のハッシュタグを提案します  伊藤詩織さんによる日本人女性ヘイト発言に抗議します  伊藤詩織 氏が英BBCで世界へ発信した『日本社会で育つと』『誰でも性暴力や性的暴行を経験しているんです』は  嘘 です「そんな事ない」「全員だなんて嘘だ」日本人女性が声を上げています

<=ここで注目したいのは、伊藤詩織さんのBBC動画での、公共交通網を利用した際に受ける痴漢行為などの性暴力や性的加害(定義の問題は「前半」をご覧下さい https://afriqclass.exblog.jp/240634922/)が、「日本人女性へのヘイト発言」と規定されている点です。

(イ)「ヘイト発言」に該当するには・・・(6)のおさらい
この妥当性を検討するために、(6)をおさらいしておきましょう。関連すると思う点だけ端折っているので、引用の際は必ずこれではなく、以上に示した原典、翻訳、まとめをお使い下さい。

(イ)Webster英英辞典の"hate"定義:「システマティック、特に政治的に利用される憎悪」
(ウ)Webster英英辞典の"hate crime"定義:「集団の成員としての被害者」、「敵意を動機とする」
(エ)英国検察の"hate crime"定義:「アイデンティティーに対する敵意を動機とする」
(オ)EU宣言、EU人権裁判所:「差別」をベースとする、「不快感では不十分」「憎悪や暴力を扇動することができなけばならない」
(カ)日本「ヘイトスピーチ解消法」:「日本の域外の出身者、その子孫」に対する

「その生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨の告知」または「著しい侮辱」

地域社会からの排除を煽動する不当な差別的言動」

(ク)ツイッター社の利用ポリシーのアップデートの狙い:文脈への注目、対象の明確化

(ケ)以上の結果としてのツイッター社のポリシー詳細(守られるべき人びと):

①人種、民族、出身地、社会的地位、性的指向、性別、性同一性、宗教、年齢、障碍、疾病、特定グループ:「社会的な非主流派、少数派グループ」、「保護対象カテゴリー」「法的・社会的に守られるべき特定カテゴリー」

③「ヘイト行為」の中身:「他者への暴力・攻撃(略)などの助長」、「属性を理由とした他者への攻撃煽動を目的」


(ウ)(イ)に基づく伊藤氏の属性と発言内容(対象含む)の検討
以上を踏まえ、伊藤詩織さんの属性、発言内容を検討したいと思います。

①伊藤詩織さんの属性:国籍は日本(その他の国籍不明)、性別は女性(それ以外[性的指向等]は不明)、番組では性暴力の被害者として登場、宗教不明、障碍や疾病の有無不明
②伊藤詩織さんのBBC番組での発言:詳細は「前半」をご覧下さい。以上の他者(「特定グループ」、「〜アイデンティティ」)へのものではない。また、敵意や憎悪を動機とする/憎悪を煽動する発言はない。また、Websterの定義「システマティック、特に政治的に利用される憎悪の表現」でもない。
(*その他の点は(8)=「番外編」で扱います)

<=AさんとBさんに指摘されているのは、「日本人女性へのヘイト発言」ですが、以上から分かるように、「日本人女性」である伊藤さんが、自らの属している「日本人」「女性」「性暴力被害者」への「憎悪や敵意」を動機とした言動である・・・ということは、法的にも理論的、具体的な運用規約をみても、かなり厳しいことが分かります。

勿論、何らかの理由で、所属集団(日本人女性集団)に「敵意や憎悪を動機とする言動」をすることは不可能ではありません。しかし、問題にされている番組を見た限り、彼女が「日本人女性に敵意や憎悪を動機として行った言動」は見つけることができませんでした。

*いや見つけられるという方は、是非リンクと動画の具体的な箇所を御教えいただければ、大変有り難いです。

長くなりましたが(そして時間がかかりましたが)、以上が、私がAさんのツイに対して、「ヘイト」の理解、間違ってます…。英語でお調べ下さい」と書いた理由でした。


最後に・・・

すでに書いたように、世界的にも「hate crime/speech」は現在進行形で鍛えられてきている概念・用語・法制度です。日本では、外来語というハンディキャップと、まだ議論がはじまったばかりのところに一般の多様な利用により、混乱が生じている部分があります。みなで、この概念を世界でも日本でも、英語でも日本語でもその他の言語でも、議論し、鍛えていくことができればと願っています。

この勢いで「番外編」までいきたいところですが、締切の原稿と週末泊りの来客があるので、またしてもお時間いただきます。皆様も、新型コロナに気をつけつつ・・・良い週末をお過ごし下さい。




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by africa_class | 2020-11-13 05:14 | 【新設】性暴力について
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