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番組では複数の専門家が、日本の男性優位社会では、被害者がなかなか声を上げにくい状況があると指摘した。伊藤氏はその状況で敢えて被害届を出し、さらには顔と名前を出して記者会見した数少ない日本人女性だ(後略)」
訴状によると、「はすみとしこ」のペンネームで活動する漫画家は2017~19年、伊藤さんが就職先の紹介を受けるため、意図的に山口氏と性的行為に及んだなどとする趣旨の投稿をしたと…他の2人は男性で、漫画家の投稿を拡散したという。伊藤さんは「投稿内容が極めて悪質で、性的被害に続くセカンドレイプ(二次被害)だ」と主張…」
3年前に実名を出して記者会見した後、ツイッターに事実と異なる投稿をされて名誉を傷つけられたとして、自らの性被害を告発したジャーナリストの伊藤詩織氏(31)が8日、投稿した3人に計770万円の損害賠償と投稿の削除などを求める訴えを東京地裁に起こした。
伊藤氏は提訴後に都内で会見を開き、「言葉は人を傷つけ、時に死においやる。これ以上、言葉で人を傷つけることがないよう何か行動を起こさなければいけないと思った」と提訴した理由を語った。
伊藤氏は望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして元TBS記者の山口敬之氏(54)を告発したが、山口氏は刑事事件では不起訴となった。伊藤氏は山口氏を相手取った民事訴訟で昨年12月に勝訴したが、山口氏が控訴している。
今回の名誉毀損(きそん)訴訟で問題とされたのは、伊藤氏が2017年5月、下の名前を公表して性被害を訴える記者会見を開いた後の同年6月~19年12月、「はすみとしこ」のペンネームで活動する漫画家がツイートした5件。
訴状によると、18年2月には「山口」と書かれたTシャツを着た女性の絵に「試しに大物記者と寝てみたわ」「枕営業大失敗!!」など書き添えた漫画を投稿。昨年12月に伊藤氏が勝訴した後の投稿では、涙を浮かべた女性を描き、「裁判なんて簡単よ! カメラの前で泣いてみせて裁判官に見せればいい」などと記した。他の3件も同様の内容が書き込まれた。
伊藤氏は漫画の女性は自身だと指摘し、一連の投稿について「顔と実名を明らかにして性被害を訴えたのに、投稿は逆恨みや金銭目当ての虚偽の訴えと断じていて、極めて悪質」と非難。「性被害に続くセカンドレイプ(二次被害)というべき深刻な名誉毀損だ」と主張している。
問題の投稿5件の一部をリツイート(転載)した2人も訴えた。元の投稿を他人に紹介するリツイート機能は、賛同だけでなく批判や議論を提起するためにも使われるが、2人はリツイートの前後に自らの意見を付け加えていないため、伊藤氏は「賛同していると理解するべきだ」と指摘した。(新屋絵理)
3年前に実名を出して記者会見した後、ツイッターに事実と異なる投稿をされて名誉を傷つけられたとして、自らの性被害を告発したジャーナリストの伊藤詩織氏(31)が8日、投稿した3人に計770万円の損害賠償と投稿の削除などを求める訴えを東京地裁に起こした。
伊藤氏は提訴後に都内で会見を開き、「言葉は人を傷つけ、時に死においやる。これ以上、言葉で人を傷つけることがないよう何か行動を起こさなければいけないと思った」と提訴した理由を語った。
伊藤氏は望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして元TBS記者の山口敬之氏(54)を告発したが、山口氏は刑事事件では不起訴となった。伊藤氏は山口氏を相手取った民事訴訟で昨年12月に勝訴したが、山口氏が控訴している。
今回の名誉毀損(きそん)訴訟で問題とされたのは、伊藤氏が2017年5月、下の名前を公表して性被害を訴える記者会見を開いた後の同年6月~19年12月、「はすみとしこ」のペンネームで活動する漫画家がツイートした5件。
訴状によると、18年2月には「山口」と書かれたTシャツを着た女性の絵に「試しに大物記者と寝てみたわ」「枕営業大失敗!!」など書き添えた漫画を投稿。昨年12月に伊藤氏が勝訴した後の投稿では、涙を浮かべた女性を描き、「裁判なんて簡単よ! カメラの前で泣いてみせて裁判官に見せればいい」などと記した。他の3件も同様の内容が書き込まれた。
伊藤氏は漫画の女性は自身だと指摘し、一連の投稿について「顔と実名を明らかにして性被害を訴えたのに、投稿は逆恨みや金銭目当ての虚偽の訴えと断じていて、極めて悪質」と非難。「性被害に続くセカンドレイプ(二次被害)というべき深刻な名誉毀損だ」と主張している。
問題の投稿5件の一部をリツイート(転載)した2人も訴えた。元の投稿を他人に紹介するリツイート機能は、賛同だけでなく批判や議論を提起するためにも使われるが、2人はリツイートの前後に自らの意見を付け加えていないため、伊藤氏は「賛同していると理解するべきだ」と指摘した。(新屋絵理)
●女子学生: 私は中・高、女子高だったんですね。制服もセーラー服で可愛いし、もし誰かが被害を受けてても、自分が受けてても、女子高生だし仕方ないよねみたいな…
●男子学生: 修学旅行の時、女の友だちが目の前で痴漢されちゃって、それを男の自分でも見てて、「止めてください」っていうのを叫べなかったし、どうにもならないことなんじゃないかって、そういうことをほんとに考えて。
●伊藤氏: 被害を受けた時、サークルであっても、それを大学の中で、サークルの中で言えますか?
●女子学生: 自分を否定せずに話を聞いてくれる人を見つけるっていうことがすごく難しいなって思いました。
さて、今のところ、「性暴力」に痴漢が入っていないと主張する人はいないようなので(いたら教えて下さい。(ア)をもう少し充実させます)、「sexual assault」を詳しく、二つに分けてみてみたいと思います。エッセンスはすでに(1)で述べた通りです。ここでは、ニューヨーク警察の定義を手がかりとします。これを使う理由は、包括的にsexual assaultが定義・説明されているのと、伊藤さんがそこに住んでいたので、そこの用法を前提にしている可能性を考えてです(後者の理由はあまり重要ではありませんが)。
先に見た通り、sexual assaultには、狭義の「性的暴行」と広義の「性的加害」の二つが訳語として当てられてきました。まずは、前者についての、NY警察の説明です。レイプとの関連で説明されています。
https://www.met.police.uk/advice/advice-and-information/rsa/rape-and-sexual-assault/what-is-rape-and-sexual-assault/
"Rape is when a person intentionally penetrates another's vagina, anus or mouth with a penis, without the other person's consent. Assault by penetration is when a person penetrates another person's vagina or anus with any part of the body other than a penis, or by using an object, without the person's consent."
こういう話題は得意ではなく、このブログでは初めて「性暴力」をカテゴリに追加したので、躊躇するところですが、はっきり書いておかないとさらに誤解を生むので、一応説明しておきます。以上を要約すると、
●Rape:同意なしに意図的に他者の膣あるいは肛門や口にペニスを入れること。
●Sexual Assault:同意なしに他者の膣あるいは肛門に、ペニス以外の自分の身体の部分あるいは何らかの道具を入れること。
以上から、レイプではないものの深刻な性犯罪として、ニューヨーク警察は、狭義のsexual assaultをこのように位置づけています。なので、以上のケースに当てはまる場合は、「性的暴行」と訳していいでしょう。なお、ニューヨーク警察の定義がいずれの国でも当てはまるわけではありません。(ア)でも紹介した通り、英語でも日本語でも、国によって、もう少し範囲が広いケースをこれに含める場合があります。また、後者を「レイプ」に含める国や機関もあります。
しかし、ニューヨーク警察のsexual assaultの説明はそこで終りません。そこがミソなので、次にこれを取り上げます。
(エ)広義のsexual assault:性的加害
ニューヨーク警察の続きの文章を見てみましょう。重要な点なので全訳します。といってもかなり疲れてるので、後日訳を見直して修正するかもしれません。各自で原文をご確認の上、訳して頂ければ。問題があれば是非ご指摘下さい。
"The overall definition of sexual or indecent assault is an act of physical, psychological and emotional violation in the form of a sexual act, inflicted on someone without their consent. It can involve forcing or manipulating someone to witness or participate in any sexual acts.
Not all cases of sexual assault involve violence, cause physical injury or leave visible marks. Sexual assault can cause severe distress, emotional harm and injuries which can't be seen – all of which can take a long time to recover from. This is why we use the term 'assault', and treat reports just as seriously as those of violent, physical attacks."
「sexual (性的)or indecent (わいせつな)assaultの(より)包括的な定義は、同意なしに他者に加えられた性的な行為の形で、身体的、心理的、精神的な侵害行為(an act of --- violation)である。それは、他者に対して、(以上のいずれでも)性的行為を目撃あるいは参加を強制したり、操作して押しつけることを含む。
sexual assaultのすべてのケースが、暴力、あるいは身体的傷害を引き起こすか、または目に見える傷跡を残すものとは限らない。sexual assaultは、目には見えないものの深刻な苦痛、感情的な被害、傷を引き起こす可能性があり、だからこそ回復するために長い時間がかかる。以上の理由から、我々は「assault」という言葉を使用し、これらについての通報を暴力的で身体的な攻撃と同じように真剣に扱うものとする」
長いので、要点だけ抜き出します。
Sexual assaultの包括的な定義とは:
i) 同意なしでなされる性的な行為
ii) 身体的、心理的、精神的な侵害行為
iii) 性的行為を目撃・参加させられることを含む(強制・操作による)
iv)身体的障害や目に見える傷を残すと限らない
v) 目に見えない苦痛や感情面での被害、傷を引き起す可能性がある
vi) NY警察としては、これらすべてをassaultに含める
vii) NY警察として、これらのassaultに関する通報について、暴力的で身体的な攻撃と同じように真剣に扱う
(オ)結論
以上から、伊藤詩織さんが「sexual violence or sexual assault」と、言い換えたこと、また痴漢をこれに含んだこと、そしてかつみさんが二つをあわせて「性的加害」と訳したことには、何ら問題がなかったことが分かるかと思います。一方で、BBCの字幕に問題があったことが分かるかと思います。
(3)伊藤氏発言の「everyone」は「一人残らず全員」を意図したのか?
さて、日本語話者の一部の皆さんがとても気にしてらっしゃるこの点について次に見ましょう。時間がなくなってきたので駆け足で・・・。時間終了になったらごめんなさい。
(ア)米国口語で多用される「everyone」とは何か?
まずですが、米国英語話者は、「everyone」をとても多用します。しかし、この表現は文語(例えば、契約書、政府文書や学術論文)では、ほとんど使われません。どうしてでしょうか?
それは、これが厳密性に欠ける言葉だからです。もちろん、訳語は「みんな」などがあてられますが、日本語の「みんな」がそれだけでは確実に全員を指しているのか曖昧で、政府文書や学術論文でも避けられるのと同じ理由で、英語の政府文書や学術論文でも避けられる傾向にあります。
勿論、辞書には、"everyone"の訳語として「全員」が掲載されていますし、今回のように「誰もが」が使われるのは間違いではありません。でも、"everyone"を単体で「一人残らず」までの厳密な意味を含めて使うことは稀で、その場合には、前後に何か補足する場合が多いことは、頭においておいた方が良いでしょう。(その意味で、日本語の「全員」「誰もが」は必ずしも妥当ではない訳語となります。この点は後でもう一度ふりかえります。)
例えば、カツミさんがいうように、"literally"を"everyone"の前後につけて「全員」にする工夫もそうですし、声色や繰り返しで重みを持たせるケースがあります。例えば、怒ったお母さんが、3人の子どもたちに、「Everyone! Now!」みたいに叫ぶ場合です。この場合は、3人全員を指します。
なので、公文書や学術論文で「ひとり残らず全員」を意味する「全員」を英語に訳す時は、"all of" を使います。だから、"everyone"は極めて口語的に使われる言葉で、一番近い訳語は「みんな」だと感じていただければいいのかなと思います。
「みんなさー私のことおかしいって思ってるよね」・・・と同僚やクラスメートに相談したとします。その時、皆さんの脳裏に思い浮かぶのは、一人残らず全員でしょうか?まあ、同調圧力が高い・村八分の文化がある日本なので、そうかもしれないですが、大抵の場合「大体多数」を意味していませんか?
日本で「みんな」が口語表現であり、厳密な意味で必ずしも「全員」を指すわけでないように、英語でもそうであるとイメージしてもらえば、丁度いい感じかと思います。
なお、「Every one of 〜」という表現もあって、ややこしいですが、これは「〜は一つ残らず全員」という意味となり、文語でも使われます。なので、問題は、"every"にあるわけではありません。。でもこれは、"every 〜"が、その一個ずつを厳密に指すことが自明だからです。
その意味で、逆説的ではありますが、また面白いことに、"everyone/body"は、口語で使い倒されてきたからこそ、厳密さを失ったとも言えます。
(イ)伊藤氏発言内の"you"と"everyone"はどう受け止められるか
"If you grow up in Japanese society, everyone have experienced sexual violence, or sexual assault, but not everyone consider it was."
"you"で始まった構文内で、次に"everyone"が主語に置き換えられているのに気づいたでしょうか?
なぜ"You"が冒頭に来るのかを考えれば、彼女がここで一般論の話をしようとしていることが分かります。なので、すでに厳密さを欠いた話だと分かります。そして、"you"からはじめて、"everyone"となっている点で、その予測は補強されるわけです。
まあ、実際、あるいは本人の意図は分かりませんが、とにかく聞き手としては、「一般論」「厳密ではない」「多いんだね」というぐらいの受け止めとなります。つまり、差し引いて聞きます。
(ウ)本当に「一人残らず全員」と言いたい場合
さて、公文書や演説の読解・解釈・翻訳・通訳を仕事にして30年も生きていると、物事の理解において、「言われなかったこと」「行間」を含める形で全体を理解することの重要性を痛感します。このことは、大変重要なんですが、年々、研究者の間ですら、疎かにされてきているように思います。なので、いつかここら辺はまとめて書いてみたいと思っています。(今回はすでに長いので、この点はまた今度・・・)
その前提で、伊藤さんが、一部の日本語話者の人達が「一人残らず全員」と言いたければ、何と表現しただろうと考えることは、無駄ではないでしょう。勿論、色々な表現の仕方がありますが、最も簡単に表現するならば、
"All of those who grow up in Japan have experienced sexual violence, or sexual assault"
で済むので、あえて、以下のようにややこしい構文を使っているところに、一般論化・大体の・・・意味をもたせたかったことが分かります。なお、時制の問題や、あえてJapanese societyというかはここでは検討から外します。
"If you grow up in Japanese society, everyone have experienced sexual violence, or sexual assault,
なお、カツミさんが、everyoneならhasなのに、あえてhaveなのが間違いなのか、頭の中のイメージのせいなのかというポイントはとても面白いので彼のnoteをご確認下さい。本人しか分からないですが、私もカツミ説かなと思っています。いつか確認できたら面白い。
さて、ここであえて「結論」は書きません。代わりに、末尾にカツミさんのnoteの記述を抜粋・転載させて頂ければと思います。とても面白いので、将来英語を使って仕事をされる方などには、是非念頭においていただければ。
(5)英語の番組視聴者に(2)と(3)の点はどう受け止められるのか?
親戚が登場してしまいました…。下でとりあえずワイン飲んでてもらっています。なので、ここは急ぎ足で書いておきます。
(ア)多様性が前提の英語世界における非ネイティブのインタビュー
英語話者といっても、英語を母語としたり、公用語として日々使っている人、外国人だが仕事で使っている人、日常生活だけで使っている人など、様々です。そして、英語は多様です。ここで取り上げた"everyone"ですが、英国の上流階級は多用しません。
でもだからダメだという話になるのではなく、英国が世界の覇権国となり、英語をいくつもの大陸で時に強制、時に普及させ、近年は「英語=グローバル言語化」していくプロセスで、「さまざまな英語のすべてが英語である」という認識が持たれるようになりました。
なので、英国文学最高賞であるブッカー賞ですが、もはや英国出身者の英国英語の文学を書く人ばかりが受賞するのではなく、インドやナイジェリアやその他の「多様な英語」が飛び交う文学が賞を取ることが多くなっています。
https://www.yomuhon.com/booker-prize/
また、英国では、階級や地域で話される英語がかなり違うので、これが就職などに影響するとの問題が生じてきました。そのため、王室からオックスブリッジで使われていた「クイーンズイングリッシュ」は、いまはよりフラットな「RP(Received Pronunciation)」と呼ばれる英語が使われます。BBCやウィリアム王子たちの英語はこれです。
いずれにせよ、英語もまた変化しつつあり、多様化した英語が受け入れられており、「グローバル言語」になったメリットを享受している英語話者は、多様で、時に元々の英国の公用英語の観点からは「正確ではない」英語に対しても、寛容性が求められるようになっているという点を、多くの日本の人に知っていただければと思います。国連の会議に行けば、これははっきり分かることですが、かつて『月刊英語教育』という英語の先生たちの月刊誌に連載したので(「世界の英語・英語の世界」)、また改めて紹介します。
以上の前提で、伊藤さんの非ネイティブの米国口語の発言を、英語話者が聞いていると想像できるか否かは重要です。
(ウ)伊藤氏はこの番組で「誰」として発言しているのか(ジャーナリストか、取材対象か?)
次に重要になってくるのが、伊藤さんをこの番組内でどう位置づけるべきか、です。
彼女は確かにジャーナリストです。性犯罪についての番組も作っているし、記事も配信しています。しかし、この番組では、取材「対象」として位置づけられている点を、一部の日本の皆さん(!)が見逃している点に驚いています。
(*いま書いてて、「一部の日本の皆さん」という矛盾した表現が、日本語上成立している素晴らしさに気づきました。ここでの「皆さん」は「方々」程度のものですね。<=脱線)
なぜそれが大きなことなのかというと、発言や映像の「編集権」と「完成度」に関わってくるからです。
もし、伊藤さんがジャーナリストとして番組を作るのであれば、いずれの発言も字幕も、それが伝わるメッセージの正確度も、彼女が編集権を持っている以上、重い責任を負います。しかし、この番組では、インタビューを受けて、勝手に編集され、勝手に字幕をつけられる立場にあります。つまり、彼女はジャーナリストとしての経験を話していたとしても、この番組内では、「一取材対象」にすぎないのです。
しかも、ニュース番組の解説者という位置づけでもありません。「取材対象の当事者」としての発言となるわけで、普通にこの番組を観れば、そのように受け止めて観ると思います。他方、彼女の名前で編集権をもって発信する記事や番組については、また別の扱いが必要になります。
(ウ)「(2)sexual assaultに痴漢が入るか?」の論点の受け止め
さて、もう説明は不要と思いますが、念のため。ここまで見たように、英語世界でも、用語や定義、範疇は日々変化していっており、機関や主体によって時に大きく、時に微妙に異なっていることが分かったと思います。ニューヨーク警察が、狭義(性的暴行)と広義(性的加害)のsexual assaultの両方を捜査の対象とし、後者に心理的・精神的な加害を含めるようになったように、世界的にこの方向で変化が起きています。
しかし、だからといってニューヨークに暮らす「全員」が(笑)、ニューヨーク警察の定義を知っているわけではないように、地域や国や人種やジェンダー、宗教、年齢、学歴、社会的経験などによって、どの段階にいるのか、各用語をどの定義で受け止めるかは、様々です。やはり、性暴力の被害にあったことのある人、あうかもしれない人と、そうでない人達とでは、ここら辺の理解は圧倒的に異なります。

【付録:カツミさんの"everyone"をめぐる検討】
https://note.com/tkatsumi06j/n/nf728bf9ac6bf?magazine_key=mec52a50adf6e
「"Everyone"の訳について、第一段階では便宜上「誰もが」にしているが、これは実は無くても困らない程度の表現である。日本語話者や英語に精通しない者は逐語的に「Everyone=全員」と思いたいかもしれないが、一般には何においても全員が同じ考えであるという確証は得ようがないため、一般に口語的に"everyone"が厳密に「全員」を意味することは、ほぼない。」
"Everyone"の対語に"No one"がありますね。「誰もが」に対する「誰も」という表現。これも、英語で厳密に「誰も」を意味することは稀です。映画などでよくある"No one will believe you"(誰がおまえのことなど信じるか)みたいな表現がありますが、これも「厳密ゼロ」という意味では有りません。逆説的に、"Everyone"も同じです。
例えば私が通訳した表現に、こういのものがありました。
"Everyone in the department would agree with me"
「うちの課の者なら誰もが私に同調するだろう」
この時、私は敢えて「全員」とはしませんでした。文意に”多数派であること”が含まれているからです。しかし、「多数」ではあっても「全員」であるかどうかは話者にだってわかりませんし、受け止めた側にも確認しようがありません。厳密な話ではないのです。だからここでは「全員」とは表現せずに「誰もが」と訳出し、あとは受け手側の理解に任せるのです。
翻訳でも通訳でも、その位の思考の余地は残すものです。
これは最早対話力の問題で、相手が"everyone"あるいは"no one"と言ったからと言ってそれを一言一句真に受けるというのは流石に大人気ない話です。だから映画などでは、"NOT EVERYONE(全員じゃねえよ)"みたいな、子どもっぽい返しがよく使われるわけです。
社会人の方はそんな稚拙な理解で英語を使ってないことを願うばかりです。
では逆に、厳密に"No one"あるいは"everyone"の時には、すなわち「全員」あるいは「誰も~でない」を英語でどう表現するのか。これもよく映画やドラマなどで聞くと思いますが"literally"を前に、あるいは後に付けます。」
「Literallyという言葉はリテラル(逐語的な)リテラシー(通常は識字率、最近は教養や様々な情報に基づく状況判断力を意味します)等の言葉でも使われるように「文字通り」という意味です。"Literally"の言葉で補足することで、普段口語的には厳密ではない"Everyone"あるいは"No one"という言葉が厳密の意味を持つようになるのです。逆説的には、それだけ意味のない、といったら語弊がありますが、レトリカル(修辞的)な表現なんです。」
「最後に、これまでの説明はすべて口語的な場合、口述の場合に限られた場合に適用されるものです。契約書、法文書、社内コレポン文書など、公文書や正式な文書においては、一度"everyone"だとか"no one"だとか使ったら厳密性を求められます。なので誤解のリスクを回避するため使わないのがビジネスの定石です。社内コレポンでは、気心が知れた間柄のみ使用が許容されるでしょう。「全員」という確定的な表現は、日常では避けるのが定石です。」











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