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グローバルな食と農の危機と抵抗を解説する世界最先端シリーズ本(グローバル時代の食と農)、刊行開始しました。

国連総会での「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言」採択から3日が経過しようとしている。思った以上に、多くの人が関心を持ってくれて本当に嬉しい。

この権利宣言についてブログやツイッターで紹介して数年が経つが、正直なところ、3カ国民衆会議までは、なかなか広がらなくて、どうしたらいいのかなと考えていた。

なので、こんな風に広がるとは思ってなくて、とっても嬉しく思う。
でも、未だ未だ中身も経緯も十分知られているとはいえないので、このブログで少しずつ紹介していければ。

さて、小農の権利宣言についてもう少し詳しく書こうと思って、はたと困ったことにぶち当たった。「小農(peasants)」が、どうも日本や世界の御都合主義の人達、あるいは一般的な用語に慣れている人達が「小規模農家」と訳してしまう問題である。このことは、改めて書かないといけないのだけど、もう一つ問題に行き当たった。

それは、日本の食卓や農村を巻き込む形で進んでいるグローバルなフードシステムの問題が、どうしても日本の中では十分理解されていないという限界。そして、それに抗い乗り越えようとする南の小農たちの身体をはった、しかしクリエイティブでイノベーティブな試みについては、さらに知られていなかった。

2008年のグローバルな食料危機と引き続き生じた食をめぐる暴動(これが一部政治変動に繋がる)、「グローバル・ランドグラブ」と呼ばれる土地強奪(収奪)とそれを規制しようとする国際的なアクション・・・この10年の南の村々や畑や森、NYの企業の役員室、ロンドンのニュースルーム、国連の会議場までを巻き込んで、繰り広げられてきた相克は、まったくといっていいほど日本では関心をよばなかった。

これは研究や教育の分野でも同様だった。
日本で食と農について研究してきた人達は必ずしもグローバルな展開との連動性の中で研究してきたわけではなかった。逆もまたしかり。

あるいは社会運動に関心を寄せる人がグローバルな食と農の分野もスコープに入れることは稀で、開発学関係の人たちこそ注目してもよさそうなのに、日本ではほとんどの関係者がスルー。

ましてや、援助業界の人は、「小農の運動」に胡散臭いまなざししか投げかけてこなかった。グローバルに負の影響を及ぼしているフードシステムの構造はさておき、対象の村・農民グループの「生計向上」があればそれでよし、と。あるいはそのシステムへの垂直統合を、「グローバル・フードバリューチェーンへの統合=貧困からの脱却」と信じ込んで無批判に奨励・・・。

もちろんTPPの反対運動などに関わる人達は、グローバルと国内の関係性に強く関心を寄せてきたし、理解も深めてきた(もちろん、印鑰 智哉さんは別格だけど)。

でも、残念ながら、日本では、この分野の研究や教育は著しくマイナーかつ遅れてきた。そのことが、日本の農と食をめぐる政治・政策や開発援助政策・事業を、グローバルな展開とあわせて考察する理解を不十分(あるいは皆無)にした。マネーの力は国境を超えているというのに…。そして、海外で著しい負の影響を及ぼす開発に官民が手を染め続け、そして国内にも、ついに「黒船到来」を招いてしまった。なのに、これをテーマに研究や論文を書く若手はほとんど現れない・・・というお寒い状態に日本はあった。

この状況を変えるため、近畿大の池上甲一先生、京都大学の久野秀二先生とともに、シリーズ本(グローバル時代の食と農)9巻を明石書店から刊行していくことになった。
後に、龍谷大学の西川芳昭先生と総合地球研究所の小林舞さんが参加して、ICAS日本語シリーズ監修チームができた。
*ICASはInitiatives for Critical Agrarian Studiesの略称
(原本の企画陣、オランダ・ハーグのISSに拠点)

【第1巻】
  • イアン・スクーンズ『持続可能な暮らしと農村開発〜アプローチの展開と新たな挑戦』(監訳:西川芳昭、訳者:西川小百合)、明石書店。
  • http://www.akashi.co.jp/book/b420384.html

【第2巻】
  • マーク・エデルマン/サトゥルニーノ・ボラスJr.『国境を超える農民運動〜世界を変える草の根のダイナミクス』(監訳:舩田クラーセンさやか、訳者:岡田ロマンアルカラ佳奈)、明石書店。
  • http://www.akashi.co.jp/book/b420388.html

さて。
私が担当した第二巻はまさに「小農の権利 国連宣言」が成立するまでの歴史的プロセスを学ぶのに適した本なので、次以降に詳しく紹介するにあたって、まずはこれから3年にわたって出版していくこの「グローバル時代の食と農」シリーズの誕生秘話をお伝えしておこうと思う。

これは、以上の第二巻の171頁「訳者解説」で紹介中。でも、明石書店さんの許可が出たので、一部だけ転載するので、ぜひ残りは手に取って読んでくださいませ。

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本シリーズの誕生秘話(176頁〜178頁)

(第2巻の共著者でありシリーズの仕掛人かつ編集長のサトゥルニーノ(ジュン)・ボラス・ジュニア教授の紹介)

 食と農の分野では世界的に知らない人はいないジュン・ボラスは、日本では未だほとんど知られていない。現在、世界でもっともネット上でのダウンロード数が多い社会科学の学術誌の一つである『Journal of Peasants Studies(JPS、小農研究)』の編集長として敏腕をふるいながら、土地収奪や小農運動、食の問題について様々な国際的な研究や社会運動の世界的ネットワークづくりに従事し、国際的な交渉・学説・言論空間に多大なる影響を及ぼしてきた人物である。ICASも彼のイニシアティブであり、彼が企画・主宰する国際学術会議には毎回500人を超える世界の若い人達の応募があり、農民運動やフードムーブメントの関係者も必ず参加し、現実に根ざした最先端の議論が繰り広げられる。実は、その多くの会議を農民運動自身が共催しており、学術空間を社会に開くという意味でも新しい風をもたらしてきた。

 世界に国境を越え、分野や出自を超えた言論空間をきり拓いてきたジュンであるが、フィリピンの少数民族出身である。1980年代後半に、フィリピンの国立大学の法学部に入学したものの、社会運動に身を投じ1990年代前半まで、フィリピの農村住民とともに活動に明け暮れていた。その彼が、問題の根源が社会のなかだけではなく、フィリピン農民が置かれた世界的状況(とそれに影響を受けたフィリピン政治経済社会環境)にあるのだと気づき、1990年代半ばにオランダ・ハーグにあるISS(社会科学国際研究所)のドアをたたき、そして教授に昇り詰めたこと自体が、時代の変化を物語っている。しかし、彼はアクティビストとしての活動も継続し、ビア・カンペシーナの設立に関与したほか、現在もアムステルダムにあるトランスナショナル研究所(TNI)の研究員として市民社会でも重要な役割を果たしている。その意味で、彼自身が「越境する運動」を体現しているともいえる。

 ジュンがフィリピンで学び活動していたとき、彼が最も参考にしたのが上記のJPSであったという。しかし、インターネットにアクセスできずお金もなかった時代、編集長に手紙を書き研究誌を送ってほしいと頼んだが、その返事は届くことはなかった。そんな彼が編集長に着任したとき最初にしたことが、社会にとって重要な論文にフリーアクセスの機会を提供することであった。このICASブックシリーズはその延長線上にある。世界中のこの分野に関心を寄せる若者、農民、社会運動や市民活動に関わる人たち、そして実務者や政策立案者に気軽に手にとってもらえる「小さい本」を届けたい。しかし、その「小さな本」は「ビックなアイディア」が詰め込まれ、これまでの学説を検討し現実に根ざした分析ながらも、未来に開かれたビックなアイディアを共有し、励ましたい、そういう願いが込められている。そして、国境を越えてこれを届けるために、すでに世界各国で10を超える言語に訳されているが、この日本語版の誕生は列の最後に加わるものである。

 このシリーズ本の日本語版を出版してほしいとジュンに頼まれたのは、2014年のことだった。その際に、「どうして日本には世界に出てくる人がこの分野でほとんどいないのか?」と繰り返し問われた。筆者は、2012年末からランドグラブの問題に関わるようになり、世界各地の研究者や農民運動、アクティビストと関わるなかで、日本でもっとこの分野を学び関わる人を増やさなければならないと強く感じるようになっていた矢先のことでもあった。

しかし、長年にわたって戦争と平和、そしてアフリカ地域研究を中心に研究をしてきた身には荷が重いことであった。そんななか、アフリカ研究と活動を通じて、今回の監修チームの仲間と集えたことは、本当に幸運だった。また、日本の大学を去りドイツと日本の間を行き来するようになった私の新たな学びを支えてくれたのは、ICASに集う老若男女の「villagers(村人)」たちであった。食と農の分野の古典から最新の文献を次々に与えてくれ、議論に参加させてくれ、鍛えてくれた「村人」たちに心から感謝したい。これらの文献を、ドイツの森と畑のなかで農に従事しながら音声で聞きながら「読んだ」日々は一生の宝物である。
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改めて読むと(自分で書いたものの、民衆会議の準備が大詰めの最中に書いていた文章なので、あまりしっかり頭に入っていなかった…)、私の運命は、2012年8月にモザンビーク農民連合(ビア・カンペシーナ)に呼び出されてから、大きく変わったのだなと、ふと思った。

モザンビーク北部の小農(すでにこの世にいない人も含め)の導きで、大学院に戻ったり、大学で教えたり、研究者になったり、社会活動に加わったり・・・といろいろなことを経験してきた25年だったけれど、2012年の再会とプロサバンナ事業の問題が、自分の専門分野まで変えてしまうとは正直思ってもみなかった。

でも、実は違うことをやっているわけではなくて、すべては連動していたのだと、いまでは納得している。

ひとりでも多くの日本の若い人達に、この分野に一緒に取り組んでほしい。状況は厳しいけれど、厳しいからこそ、クリエイティブな手法で南の小農たちは日々闘っているし、オルタナティブを生きている。関心がある人はツイッターで連絡下さい。


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by africa_class | 2018-12-20 04:11 | 【国連】小農の権利宣言